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大谷翔平の指揮官・ネビン監督(52歳)とは何者なのか? イチローからも「好きですね」と称賛される気さくなボス「毎日26人全員の選手と話す」
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byAFLO
posted2023/08/12 11:02
エンゼルスで指揮を執るネビン監督と大谷翔平
ネビンを変えた“ある選手”の影響
頭角を現したのは99年のパドレス移籍から。この年、規定打席には足りなかったものの、24本塁打と持ち前の長打力を発揮、打率も.269と及第点を得た。三塁手としてのレギュラーも獲得し、00年は打率.303、31本塁打、01年はともにキャリアハイの打率.306、41本塁打を放ちオールスターにも初選出された。飛躍のきっかけは何だったのか。ネビンはある選手との出会いだったと説明した。
「多くのコーチをたくさん研究した。そんな時にまだ現役だったトニー・グインから学んだんだ。サンディエゴ(パドレス)に移籍し、彼がどれだけたくさんのビデオを見て研究しているかを見た。相手投手がどのように彼や他の選手を研究し、攻めてくるのか。彼はビデオを繰り返し見ながら研究していた。そこから僕も学んだんだ。僕のキャリアを好転させたのはトニーと巡り合い、一緒にプレーできたことだ」
パドレス一筋20年間。通算3141安打を放ち野球殿堂入りも果たしたグインは首位打者8回、通算打率.338を残すとともにシーズンの平均三振はわずか21.7個。三振しない打者としても有名だった。
愛称は「キャプテン・ビデオ」。クラブハウスだけでなく自宅にビデオルームを設け、自身の技術、投手の配球、捕手や審判のポジショニングまでを研究し、それぞれのストライクゾーンを確認していたことでも有名だ。そのグインからネビンは何を学んだのか。
「技術的なことではなかった。もっと準備が必要だということだ。試合の状況をもっと学び、彼らがどんな投球をしてくるのかを理解すること。サンディエゴでの数年間はそのことを彼と話し続けた。これは僕にとって、とてつもなく大きなことだった。テクニックでなくメンタルサイド。投手が何を投げ、何をしようとしているのかを理解し、そこをクリアにする作業を毎年続けたんだ」
イチローも「好きですね」とネビンを評価していた
余談になるが、そんなネビンのアプローチを高く評価していたのがイチローさんだった。ネビンがエンゼルスの監督に就任した後、同時期に敵として戦ったイチローさんに印象を聞いたことがある。
「僕は好きですね。頭のいい打者という印象ですね」
イチローさんは相手のウイニングショットを仕留めると同時に自分が抑えられた打席の配球を徹底的にチェックする。そして、仕留められた球を仕留め返すことに重きを置いてきた。準備を重ね、研究し、仕留める。そんなネビンの姿勢を感じ取っていたからこその評価。イチローさんの言葉を伝えると嬉しそうだった。
「イチローから賛辞を受けるなんて。こんなクールなことはないよ。ありがとう」