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大学野球PRESSBACK NUMBER
“野球経験ゼロのガリ勉京大生”がダルビッシュ有とDMを…万年最下位の京大野球部に変革をもたらした「素人アナリスト」とは何者なのか
text by
菊地高弘Takahiro Kikuchi
photograph byJIJI PRESS
posted2023/08/11 17:02
選りすぐりの秀才が集う名門・京都大学。学力と反比例するように、同大学の野球部は関西学生野球連盟のリーグ戦で“万年最下位”に甘んじていた
「なんじゃ、その虹色みたいなクツは」
京大野球部はこの年から、簡易型弾道測定器のラプソードを導入することになった。ラプソードとは、投球・打撃のデータを測定・分析するトラッキングシステムのこと。投手なら自身の投げたボールの球速だけでなく、回転数や回転軸、回転効率などの数値が計測できる。MLBやNPBの球団でも導入され、技術向上につなげている。
投手のデータを計測するなら、ホームベースから5メートル弱、投手寄りの場所に三角柱の保護タンクに収納された機器をセットする。この状態で投手が投球すると、レーダーがボールを感知してデータを取得。Wi‒Fiを通してiPadに転送される。
慶應義塾大がラプソードを活用している記事を読んだ青木が「今までと違うアプローチができるかもしれない」と考え、京大でも購入することになったのだ。
だが、肝心のラプソードを扱える人材が野球部にはいなかった。そこで野球競技経験の有無を問わず、ラプソードを扱うための「アナリスト」を募集した。
応募してきた新入生は、「三原大知」と名乗った。日本屈指の進学校である灘高校出身。一浪を経て、経済学部に入学している。
池田は三原の風貌をしげしげと観察した。女子マネージャーですらグラウンドにはジャージ姿で来るというのに、三原はフリースにジーンズといかにも大学生の私服姿という出で立ち。さらに一目で運動用ではないとわかる、カラフルなスニーカーを履いていた。
「なんじゃ、その虹色みたいなクツは。面白そうなヤツやな」
三原に体育会の匂いがまったくしないことが、逆に池田の興味をかき立てた。なにしろ三原が中学・高校時代に所属した部活は生物研究部だったのだ。野球のプレー経験は皆無だという。その代わり高校時代からMLBのデータサイトに入り浸り、データ関連の知識が豊富だった。
「いろいろと教えてや!」
積極的に話しかける池田に対し、三原は警戒心が解けないのか腰が引けているようだった。