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来た、見た、書いたBACK NUMBER
「久保(建英)くんはスペイン語も自由に使えるのが最大の強み」ガンバ大阪・岡井通訳が語る“攻撃だけではない”スペインサッカーからのヒント
text by
下薗昌記Masaki Shimozono
photograph byDaisuke Nakashima
posted2023/08/11 11:01
レアル・ソシエダのイマノル監督と久保建英。両者は通訳なしで意思疎通を図れるが、ガンバ大阪の岡井通訳から見たスペインサッカーとは?
「久保くんはずっとスペインで育ってスペイン語も自由に使えるのは最大の強みじゃないですか。スペイン人は日本人みたいに人との距離を保つタイプじゃないんです。ピッチ外、ピッチ内を含めて仲間と接する量、コンタクトの回数を増やすことが大事ですね。日本人は慣れていないと思うんですが『コモ・エスタス(調子どう)』みたいな呼びかけや、ボディタッチとか、常に自分の側から愛情を示すとか、歩み寄るっていうのは凄く大事だなと思っています。2つ目は戦術面。特に守備戦術の理解ですね。そして3つ目は細かい個人戦術。ここは日本人と凄く差があるんじゃないかと思います。自分自身も、体の向きやスペース認知では大きな差があるなと感じていました」
「体の向き」って、日本とスペインで少し違う
ポヤトス監督だけでなく近年のJリーグではスペイン人監督が指揮を執るケースは珍しくなくなってきた。徳島ヴィルティスと浦和レッズを率いたリカルド・ロドリゲスや今季、FC東京を解任されたアルベル監督、J3に昇格した奈良クラブを率いるフリアン・マリン・バサロ監督らがいるが、日本人の指導にスペイン人監督は向いているのだろうか。
「合うか、合わないかと言ったら僕は合っていると思います。ただ、時間は必要だなとも感じています。双方がサッカーで当たり前だと思っていることが、実は当たり前じゃないっていうことが結構あるんです。『体の向き』ひとつとってもそうです。多分、日本人が思っている体の向きと、スペイン人が思っている体の向きは、少し違うと思うんです。『ボールから離れろ』とか『ボールに近寄って行け』ということも、スペイン人の方が細かく分けて考えていると思います。
そのズレが解消されてバンとはまった時は、リカルド監督は徳島で成功しましたし、ロティーナ監督も東京ヴェルディとセレッソ大阪で成功されたと思います。ただ、1年目から成功した訳ではなく、ダニに関しても徳島時代の2年目の初めはスタートが悪かったんですけど、選手の理解度が高まるにつれてチームも波に乗りました。スペイン人監督は、即効性はないかもしれないけれど、時間をかければ本当にすごくいい作品というか、本当のフットボールを表現できる方たちだという印象を持っています」
日本人だと言い辛そうなところをどう伝えるのか
ガンバ大阪の試合ではポヤトス監督の代わりにピッチサイドで指示を出したり、大阪ダービーでは熱さのあまり警告を受けたりと情熱的に指揮官の言葉を伝え続けている岡井通訳。サッカー界にはジョゼ・モウリーニョ監督や間瀬秀一氏ら、通訳出身の指導者がいる。岡井さんが将来的に目指すのも監督だ。
「絶対に指導者になるというのが自分の夢です。でも今、通訳という立場でも、凄くいろんなことを学ばせてもらっています。選手通訳とは違って監督・コーチの通訳としてテクニカルの部門にいるのですが、ここはサッカーの知識をもらえる素晴らしい環境です。
スペイン時代は、皆が情熱を持ってピッチの中での身振り手振り、声の強弱、トーンなどを使いながら、何とかして選手に伝えようとするのを見てきました。育成年代の中で生きている指導者にも、この職業で成功したいという情熱を持っている方がたくさんいました。影響を受けたグアルディオラも素晴らしい見本ですが、ダニやマルセルは自分の中で基準になっている指導者です。彼らがどういう時にバッと強く言うのか、日本人だと言い辛そうなところをどう伝えているのか、僕にとっては日々が勉強になっています。
プロ選手上がりの方も多いし色々な競争があるので、『将来S級を取ります』とか『将来、すごい指導者になります』という自信はないですよ。ただ今まで僕が培ってきたものもあるので、この世界で生きていくならば、指導者としてやっていくという夢があります」
1学年上の宇佐美貴史らプラチナ世代に憧れを抱き、京都サンガのアカデミーからプロに羽ばたいた同期から大いなる刺激を受け続けてきた岡井さん。「自分のモチベーションは彼らに追いつきたいということ」と憚らずに言い切った。立場こそ違うが同じJリーグの舞台で、日々、真剣勝負を生き抜くつもりでいる。
<#1からつづく>