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「就活を本気でやらせてください」サッカー日本代表・森下龍矢は“損保業界”を目指していた…明大生が内定を辞退してJリーガーになるまで
posted2023/08/04 11:01
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph by
Yudai Emmei
6月15日、いつもの名古屋グランパスの赤ではなく、青いシャツを纏ってタッチライン際を疾走する“元就活生”の姿に、本拠地・豊田スタジアムが沸いた。
そんな念願の日本代表デビューの、わずか4年前のことだ。明治大学4年生だった森下龍矢は、カラフルなユニフォームではなく、黒のリクルートスーツをばっちり着込んで面接に臨んでいた。会場は、損害保険大手の有名企業。そこで、就職活動定番の質問を受けた。
あなたの長所は何ですか?
青年は面接官の目をまっすぐ見据えて、ハリのある声で答えた。
「どんな課題でも乗り越えられる突破力です!」
この数カ月後、待望の内定通知が届いた――。
就活どうしよう
大学サッカーは、近未来のJリーガーの宝庫である。多くの選手がプロになることを目指してプレーしている。名門・明治大学ともなれば、なおさらだ。ジュビロ磐田の下部組織で育ち、明大に進んだ森下もまた、その1人だった。ただし、実際に夢をかなえられるのはひと握り。突出した才能を示す選手には早い段階で各クラブのスカウトから声がかかる一方で、そうでない選手は一般の大学生と同じく将来の進路について迷い、悩む。
かつて明大OBの長友佑都(FC東京)がそうだったように、森下は2年生の途中まで応援席で太鼓を叩き、仲間たちのために自ら考えたチャントを歌っていた。
「正直、複雑な感情はありました。みんながヒリヒリした戦いを経験しているのに、俺は何をやってんだろうって。特に、中村健人(鈴鹿ポイントゲッターズ)や佐藤亮(ザスパクサツ群馬)、安部柊斗(モレンベーク=ベルギー)とか、同級生が試合に出ていると、悔しかった。応援の気持ちが1割、ドロドロの嫉妬の感情が9割でしたよ(笑)。ただ、3つ上の先輩に河面旺成さん(名古屋グランパス)がいて、僕とは圧倒的にレベルが違っていた。あまりのすごさに“あ、俺、4年間試合に出られないかもしれないぞ。就活どうしよう” って現実的に考えちゃいましたね」
もしもプロ選手として海外に行けないのなら…
3年生になって、徐々にトップチームでの出場機会を得るようになった。それでも森下は、自分にプロレベルの才能があるのか、確信を持てずにいた。