濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
革紐で首を絞め合って…なつぽいvs安納サオリ“泥沼の名勝負”の裏にあった特別な感情とは? SNSは互いにミュート「愛と嫉妬と絶望」の8年間
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2023/07/20 11:01
スターダム横浜武道館大会のメインで対戦したなつぽいと安納サオリ
勝って笑った安納。なつぽいが抱いた特別な感情
安納はOZアカデミーではヒールユニットに所属。尾崎魔弓のチェーン攻撃で大流血したこともある。今回の試合でも、革紐を積極的に武器として使ったのは安納だった。スターダムに対して、なつぽいに対しての複雑な思いはあったが、荒々しいファイトも含めて自分の経験値を堂々とぶつけていった。途中からは革紐と一緒に闘っているような気持ちだったという。
「クサいこと言うと“つながっているもの”とともに試合をしたなと」
革紐でつながれて「ややこしい」試合になった。つながっているからややこしい。でもそのややこしさが、つながっているという実感にもなった。
「私たちの関係そのままですね」
勝った安納は笑った。なつぽいにも、勝ち負けとは別に感じるものがあった。
「スターダムの中でなつぽいという存在をちょっとずつ確立できてきたかなというところでサオリが来て。そうすると自分のコンプレックスを意識してしまうんです。細かいことを気にする、嫉妬深い自分に戻ってしまう。本当は根拠のない自信が一番の武器で、“私は私”だと思えた時こそ高く翔べるのに。
久しぶりにサオリと試合をしてみて思ったのは、コンプレックスと向き合う必要があったんだなって。試合に負けたのは悔しいですけど、コンプレックスを乗り越えることはできました。ここからもっと強くなれると思います」
新人時代の2人の夢が叶った日
スターダムのビッグマッチ、しかもメインイベントで安納と対戦できたことも「感慨深すぎます」となつぽい。新人時代、スターダムで安納とともに先輩レスラーのセコンドについて「いつか私たちもこんな凄いメインイベントができるようになるのかな」と話し合った。それと同じ、いや舞台としては大きくなったスターダムで2人でメインを張った。
「試合前も会場の大きな天井を見上げてましたね。こみ上げてくるものがありました。それにプロレスデビューして8年、サオリが私をどう思ってるかを初めて知ることもできました。この愛も嫉妬も、ずっと私の一方通行だと思ってたんです。負けたくないと思ってるのは私だけで、サオリは何も気にしてないし余裕なんだろうなって。でもそうじゃなかった。嬉しかったですね。まさかツイッターで“相互ミュート”してたなんて(笑)」
いつもどちらかが追いかける。どちらもトムでどちらもジェリーの関係。お互いミュートを外して、大舞台で勝って、それでも安納は「まだまだ」だと思った。