濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
革紐で首を絞め合って…なつぽいvs安納サオリ“泥沼の名勝負”の裏にあった特別な感情とは? SNSは互いにミュート「愛と嫉妬と絶望」の8年間
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2023/07/20 11:01
スターダム横浜武道館大会のメインで対戦したなつぽいと安納サオリ
タッグパートナーであっても“ライバル”
今年3月、アイスリボンのチャンピオンにもなり自分のキャリアに自信をつけていた安納に、恩人のKAIRIからスターダムへの誘いがあった。KAIRI、安納、なつぽいのチームで6人タッグのベルトに挑戦したいという。いつか必ずと考えていたスターダム出場のチャンスが、ついにやってきた。しかし不安もあった。
「なつみと顔を合わせて、ちゃんと向き合うことができるのかなって」
4月の横浜アリーナ大会でタイトル奪取。初防衛戦で敗れはしたが、スターダムへのレギュラー参戦で安納の知名度はさらに上がった。女子プロレス界屈指の人気選手がスターダムという舞台を得て輝きを増すのは当然だったのかもしれない。そうなることは、なつぽいも予想していた。
「いつかサオリもスターダムに上がるだろうなって。どこかで怯えてた部分がありました」
安納サオリがスターダムに来たら、自分の存在が脅かされるかもしれない。そういう思いもありながら、どちらもスターダムで闘うようになり、一緒にベルトを巻いた。対戦もまた必然だった。タッグを組んでの試合中、技を“誤爆”したことから対戦が決まる。仲違いではなかった。なつぽいと安納サオリはタッグパートナーというだけでなくライバルだ。道が分かれてから、秘めてきた思いがある。闘うことでしか伝えられないことも。どちらもそう考えていた。「1人のレスラーとしてなつみと向き合いたい。その気持ちが強くなってました」と安納は言った。
「なつみといると居心地がいいし、久しぶりに会ってみると安心しました。でも、誤爆とはいえ技を受けた時に“やっぱり対戦相手として向き合わなきゃいけない。それが運命なんだ”と思ったんです」
革紐で結ばれた2人の“泥沼の攻防”
7.2横浜大会、メインイベントのシングル戦は「インディアン・ストラップマッチ」として行なわれた。両者の手首を革紐でつなぎ“逃げ場”をなくすという古の試合形式だ。勝利条件は3カウント、ギブアップを奪った上で相手を引きずり、4つのコーナーをタッチして1周すること。
革紐は両者をつなぐだけでなく攻撃にも使われた。首を絞める、あるいは鞭のように叩く。試合は荒れた展開になった。なつぽいは言う。
「普段の試合では“どんな技を使おうか”って考えるんです。でも今回は紐が絡まりそうになったり、武器として使ったりで綺麗な試合、華やかな試合にはなりにくかった。泥沼の試合で、それが今の私たちには必要だったんだと思います。技ではなく気持ちをぶつける試合になったので」
コーナー上からの飛び技も、エプロン側から登ると革紐がロープに絡まってしまう。「うっとうしくて仕方なかった」と振り返ったのは安納だ。
「でも、紐を使ってもいいという点では私が歩んできた道、経験が活きました」