熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER
磐田で激怒しまくりドゥンガの日本愛「ゴン、ナナミ、フクニシ…“通常と異なる刺激”も」「ミトマにクボ、カマダ…“あのボランチ”も注目だ」
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byTakao Yamada
posted2023/07/16 11:02
磐田時代のドゥンガ
「Jリーグの発展と共に、日本代表も格段に強くなった。
しかし、まだナイーブなところもある。(2018年の)W杯ロシア大会のラウンド16でベルギーを2点リードした試合は、絶対に勝ち切るべきだった。深い位置でブロックを引いてしっかり守り、リスクを冒さず、攻撃はカウンターだけでよかったのに、そうしなかった。2022年大会でドイツとスペインを倒したのは素晴らしかったが、ラウンド16のクロアチア戦も勝てた試合。前半のうちに先制したのだから、逃げ切りを図りたかった」
ミトマ、クボ、カマダ。そしてボランチの…
――欧州で活躍している日本人選手をどう見ていますか?
「ミトマ(三笘薫)のドリブルと決定力、クボ(久保建英)のテクニックと創造性、カマダ(鎌田大地)のポリバレント性は欧州でも十分に通用している。
モリタ(守田英正)は私と同じボランチだから、特に注目している選手の一人だ。強豪スポルティング(ポルトガル)で絶対的レギュラーとなっているのは素晴らしい。さらに成長してもらいたい」
――今後、Jリーグと日本のフットボールがさらに進化するにはどうすればいいでしょうか?
「その国のフットボールのベースとなるのは国内リーグであり、リーグを構成する個々のクラブだ。各クラブがさらに優れた選手をさらに多く育成し、また高校や大学から優秀な選手を獲得してチーム力を高めてほしい。そして、Jリーグのレベルをさらに高めると同時にもっと多くの選手を欧州へ送り出し、彼らがその経験を代表へ持ち帰って、W杯でさらに良い成績を残してもらいたい」
――現在のセレソンをどう見ていますか?
「ブラジルのクラブは引き続き優秀な選手を育てており、欧州ビッグクラブでプレーする選手も多い。しかし、実はチームの中心を担う選手は多くない。
所属クラブで中核を成す選手が多ければ、プレッシャーがかかる試合でも力を発揮できる。今のセレソンにはそういう選手が少ないのが問題だと思っている」
慈善活動をしていて感じることとは
――2016年以降、あなたは一度も監督を務めていません。
「欧州、アメリカ、中東などのクラブや代表から再三、オファーをもらっている。しかし20年近く前から、私はここポルトアレグレで貧しい人々や恵まれない人々を助ける活動をしている。
1995年に「ドゥンガ基金」を創設し、国内外の企業や個人から寄付を募って恵まれない子供たちやお年寄りに物資を送る活動を始めた。2020年にパンデミックが始まると、困窮する人がさらに増えた。そこで、「セレソン・ド・ベン8」(注:「8が物資を集めるチーム」の」意。8はドゥンガの背番号)という団体を創設し、さらに活動の輪を広げた。今日も、これから寄贈された物資を受け取り、団体に届ける」
――長年、このような慈善活動をしていて感じることは?
「世の中には、非常に多くの困窮者がいる。彼らは、経済的な問題を抱えているだけでなく、社会から疎外されている。
セレソンの元キャプテンである私が彼らに物資を手渡し、話しかけると、とても喜んでくれる。また、彼らから学ぶことも多い。選手、監督だった頃より充実した人生を送っているような気がする」
――今後、もし日本のクラブから監督の要請があれば?
「プロジェクトの内容によっては、検討するよ」
◇ ◇ ◇
ブラジルの片田舎で生まれ、決して特別な才能にも体格にも恵まれたわけではない男が、幾多の困難を乗り越えて世界の頂点を極めた。Jリーグと日本のフットボールにも、多大な貢献をしてくれた。
ブラジル人選手というと、ロナウジーニョ、ネイマール、ビニシウスら超人的なテクニックと創造性を持つ選手を思い浮かべる人が多いのではないか。しかし、彼らだけでは試合に勝つことはできない。彼のように、地味ではあるがフットボールの真髄を究めた選手がいるからこそ、勝利を収めることができる。そのことは、彼がペレと並び、セレソンで最も勝利に貢献した選手である、という事実が証明している。