プロとの差を埋めるため、岩元がとった行動は？

　一方で、俳優陣のそういった姿を目の当たりにするにつけ、キャリアのあるわけではない自分が徒手空拳で撮影に挑むことの大変さも良く分かってきた。

「セリフや表情にキャラクターのある背景がある、というのは理解できるんです。頭の中で、どういう感情でその言葉を言っているのかは分かる。でも、それが実際に自分の表情や口から出た言葉になった時に、周りにそう感じてもらえるかは全く別物なんです」

岩元が演じた馬狩。特徴的なモミアゲはトレードマークに／Netflixシリーズ「サンクチュアリ -聖域-」

　例えば、主人公の猿桜との対戦シーンがある。ライバル力士である馬狩を演じた岩元は、自分の師匠から指示を受けて猿桜に何度も立ち合いでつっかける。

　角界の“異物”である猿桜を排除するために動く馬狩の表情は、ひとつひとつが猿桜を軽んじたものでなくてはいけない。その感覚自体は頭で理解できるのだが、それを周りに一目で分かるように発信するのは、演技に慣れていない岩元には実に難しかった。

　そして、そういったケースは何度もあった。

　そのたびに、プロとの力の差をまざまざと感じさせられた。岩元が元力士なら、相撲のシーンで挽回しようと意気込むこともできただろう。だが残念ながら本物の力士経験者たちに一朝一夕で勝てないことは、実際にオーディションで半年近く稽古に励んだ自分自身が最もよくわかっていた。

　そこで状況を打開すべく岩元が取った手法は、実にシンプルなものだった。

「もう、とにかくいろんな人に聞きまくりました。他の役者さんに『こういう表情ならどうですか』とか『こういうアクセントならどう聞こえます？』みたいに。相撲も演技も経験ないなら、逆に開き直ってゼロから聞いていこうと」

　また、タイミングよく所属するアメフトチームのotonari福岡SUNSに元お笑い芸人のコージ・トクダが入団してくれたことも大きかった。

コージ（左）は「ブルゾンちえみ with B」として活躍。大学時代は日本一に輝くなど有力なアメフト選手でもあった／チーム提供

　トクダは元人気芸人のブルゾンちえみのバックとして、一時は連日バラエティ番組に出演していた。演技の話はともかくとして、画面の“向こう側”についての相談に乗ってくれる人が身近にできたのは心強かった。

「『周りはみんなプロなんだから、自分で勝手に結論を出すんじゃなくて、迷ったら周りの人に聞けばいいよ』と言ってもらえて、心情的には楽になりましたね」

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