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大相撲PRESSBACK NUMBER
<“元人気芸人”からのアドバイスも…>「相撲」も「演技」も素人のスポーツ選手が『サンクチュアリ』でライバル力士を演じられた“意外な秘密”
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph byNetflixシリーズ「サンクチュアリ -聖域-」
posted2023/07/21 17:01
岩元が演じたのは猿桜のライバル力士のひとりである馬狩。特徴的なモミアゲがトレードマーク
また、時には思い切って江口カン監督に直接教えを乞うこともあったという。
「監督も結構、『もっと抑揚つけて』とか『もっと目線はこっちに』とかすごく具体的にアドバイスしてくれるんです。ひょっとしたら演技の世界では監督に直接、そういうことを聞くのってご法度なのかもしれないとかも思いましたけど、自分が逆の立場だったら、分かったふりして半端なことされたら多分、嫌だろうなと思って(笑)」
トップアスリートが別のフィールドで戦う”難しさ”
そう岩元は一笑に付すが、日本トップクラスのアスリートがそのプライドを捨ててイチから他のフィールドで戦う難しさは間違いなくあっただろう。同様のケースで、多くのアスリートが第二の人生で躓くケースは枚挙にいとまがない。
「まぁでも現場では誰も素人扱いしてくれませんからね。そこに行った時点で自分もプロ扱いになる。『え、岩元さん、相撲も演技もはじめてなんですか?』ってたまに驚かれるくらいで」
そしてその反応は岩元にとって、かえって心地よいものでもあった。
それまでの経歴云々は関係なく、現場での頑張りが評価されるというシンプルさは、むしろこれまで戦ってきたスポーツのフィールドに近いものがあったからだ。だからこそ変なプライドに拘ることもなかった。ケガと紙一重の激しいシーンであっても、とにかくそこで精いっぱいの結果を出すために、必死に戦うことができた。
作中でも屈指の名シーンとなっている、猿桜との取り組み後の土俵下の馬山親方への「ダイブ」の撮影には、特に力が入ったという。
「何回やってもいいものが撮れなきゃダメなわけですから。角度や表情など、いろんな試行錯誤を繰り返しました」
江口監督からの「意外な申し出」
そんな岩元の愚直な姿勢が響いたのか――は定かではないが、撮影中には江口監督から意外な申し出もあったという。
「猿将部屋への出稽古のシーンの撮影の時、もともと僕は出番も短いし、セリフもなくてその場にいるだけの予定だったんです。だから台本も持ってきてなかった。でも、早朝に現場に行ったら江口監督から『イワモン、全部いける?』って言われて。ビックリして『全然いけますけど……僕、台本持ってきてないっすよ』って初めてそこで素人面しました(笑)」
驚きこそしたが、言われた以上はなんでもやるのが岩元のスタンスだ。
スタッフに借りた台本で必死にセリフを頭に入れた。主演の一ノ瀬は、「当日に出番が増えるなんて聞いたことないっすよ」となかなかない出来事を喜んでくれたが、翻って岩元本人はむしろそのシビアさに背筋が寒くなったという。
「だって僕がこうして出番が増えてセリフが増えたということは、その分、それで役を失った人がいるわけです。そういう意味では本当に1回1回の撮影が、おおげさじゃなく人生かけた勝負でもある。もらったチャンスをものにできるかどうか――スポーツも大変だけど、俳優の世界も厳しい世界だなと思いましたよ」
結果的に岩元の追加シーンはばっちり本編に収録され、“もらったチャンス”をガッチリつかんだ形になった。