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「羽生先生は“可愛らしいお父さん”のイメージ」あの“寝起きウサ耳姿の羽生善治”を発案した女性フォトグラファーが語る「衝撃の一枚ができるまで」 

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茂野聡士

茂野聡士Satoshi Shigeno

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photograph bySPORTS NIPPON

posted2023/07/14 11:02

「羽生先生は“可愛らしいお父さん”のイメージ」あの“寝起きウサ耳姿の羽生善治”を発案した女性フォトグラファーが語る「衝撃の一枚ができるまで」<Number Web> photograph by SPORTS NIPPON

今年の王将戦で話題となった挑戦者・羽生善治の「勝者の記念撮影」。あの衝撃的な「ウサ耳姿」はどのようにして生まれたのか、担当者に話を聞いた

「羽生先生には娘さんが2人います。聞いたところ、私と同世代なのですが、私から見ると“可愛らしいお父さん”というイメージがすごくあるんです。(羽生の妻である)理恵さんのTwitterで羽生先生との日常のやり取りを見ていると、〈ユーモアのある面白い方だなあ〉と感じていました。実際に現場でお会いすると、いい意味で緊張感を与えない方で、こちらのお願いを何でも受け入れてくれる感じで、“お父さん”のイメージがより強くなりました」

「羽生にらみ」ではない、新しい「羽生」観

 七冠全冠制覇を成し遂げるなど、20代の羽生は今の藤井と同じように日本全国からの注目を集めた。当時の写真を見直すと……いわゆる「羽生にらみ」の鋭い視線で盤面を見つめる姿が印象に残っているファンも多いだろう。そこから四半世紀の時を経て、羽生は藤井との対局後の感想戦で穏やかな表情を浮かべる姿が話題になった。20代の藤山さんたちにとって、SNSなどで“今の羽生さん”に接する機会が多いからこそ、そのように感じているのだろう。藤山さんは続ける。

「羽生先生、理恵さんのツイッターを拝見していて、ご家族がとてもウサギ好きだということはわかっていましたし、時には羽生先生にウサ耳を合成した可愛らしい写真も投稿されていたんです。今年の干支が『うさぎ』で第1局では藤井先生がウサギ姿で餅をつくという構図で撮影をしている一方、羽生先生はというと、羽織のひもや草履の鼻緒にウサギをあしらった着こなしをされているのに、まだウサギ姿での撮影をしていなかった。ウサギと縁が深く、そのウサギ姿をファンのみならず、ご家族も期待しているのでは? そしてその期待に応えるべきではないか、と思ったんです」

運命は勇者に微笑む

 藤山さんはインスタグラムに投稿されるような構図をイメージしつつ、その解釈を王将戦チームに共有。藤山さんの力説により、チームが“ウサ耳”姿案で動き出し、世間をあっと言わせる一枚へとつながった。

 話を聞いていて思い出したのは――羽生の名言の1つ〈運命は勇者に微笑む〉である。羽生を長年追う立場の人から「羽生先生は将棋で迷う局面に立った際、攻めていく傾向にある」と聞いたことがある。攻めるにはある程度のリスクが発生するが、それが成功した際には大きな果実を得られる。そうやって羽生は数々のマジックを見せ、七冠全冠制覇や永世七冠達成、タイトル通算99期の偉業を成し遂げていったわけだが……もしかしたらその攻める姿勢は勝者の記念撮影にも貫かれ、藤山さんの勇気にも微笑みをもって応えてくれたのかもしれない。

将棋に触れ合うきっかけづくりになる写真を

「今までの伝統とともに、インスタグラムやTwitterで投稿される写真のように、若く新しい感覚でイメージを膨らませていって、より読者に共感を得られ、将棋に触れ合うきっかけづくりになるような写真を撮っていきたいというのが、最大の目的ですからね」

 高橋部長はスポニチが行う「勝者の記念撮影」の意義をそう説明する。

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