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Number ExBACK NUMBER
「日本人があの舞台にたどりつくために必要なのは…」 “NFLに最も近づいた選手”が語った「身体能力でも、英語でもない」ある要素とは?
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph byKanta Takeuchi
posted2023/07/18 17:01
アメフト引退後の木下は、ロス五輪を目指してフラッグフットボールの普及につとめている
日本人がNFLにたどり着くためには……?
いま木下は、フラッグフットボールの日本代表を目指している。
フラッグフットボールはアメフトでのタックルをプレイヤーの腰につけたフラッグを取ることに置き換え、身体的接触を原則として禁止した安全なフットボールである。コンタクトがないぶん、小中学生をはじめとした子どもでも楽しむことができる。ちなみに2028年の五輪が米・ロサンゼルス開催ということもあり、現在は五輪競技の候補にもなっている。同国でのアメフト人気を鑑みれば、採用可能性も低くはないだろう。
「アメフトを引退したいまは、まずはたくさんの人がフットボールに触れる機会をつくっていくというのが今の自分の使命かなと思っています。子どもの数も減っていくなかで、アスリートをいかに育てるかが大事になるのは間違いないですから」
その上で、木下にはいまひとつの懸念があるという。
「少子化が叫ばれる中で、才能ある子どもが複数のスポーツで“取り合い”になってしまいそうなのが嫌なんですよね。子どもの数は減ってるのに、『まず野球をやってほしい』『サッカーだけをやってほしい』というアピールの仕方が多いと思うんです。でも、そうじゃなくもっといい方法を取らなあかんのじゃないかと思っていて」
それは、先に述べた日本人の“目立つバックボーン”の獲得にも関わって来る。
他の競技に触れることは、個人の能力のレベルアップにも繋がる。その上でアメフトに興味を持ってくれればそれも良いし、別の競技で活躍できればそれでも良い。いずれにせよ、その化学反応を起こすことで、選手たちの選択肢も広がるのではないか。これまで現れなかったポテンシャルを持つ選手が登場する可能性も高くなるのではないか――木下は、そんな風に考えている。
「例えば僕は高校時代、走りのトレーニングの時に自分で毎日考えて、何年も試行錯誤をして『どうやら接地時間が短いほうが速く走れるのでは……?』という結論になった。でも、そんなことは陸上競技のコーチだったらすぐに教えてくれるわけです。
同じように、他のスポーツから得られるものはきっとある。そういった色んな知識をハイブリッドした上で、本人たちがやりたいスポーツを選べるような形になると一番良いと思うんですけどね」
知られているようにアメリカのスポーツは基本的にシーズン制で、複数の競技を掛け持ちするアスリートは少なくない。もちろん同じことがそのまま日本でできるわけではないが、その形を取り入れることで、これまでにない新たな可能性を持つアスリートも生まれ得るのかもしれない。
その中からは、これまで誰もたどり着けていない“日本人NFL選手”に近づく選手も生まれてくるのではないだろうか。
<#1から読む>
木下典明(きのした・のりあき)
1982年12月29日、大阪府生まれ。幼少期に2人の兄の背中を追ってフットボールを始める。大産大附属高で高校選手権を連覇後、立命館大へ入学すると大学日本一を決める甲子園ボウルで3連覇。大学卒業後の2005年にNFLの下部組織であるNFLヨーロッパに挑戦し、2007年、2008年と2年連続でNFLのアトランタ・ファルコンズのサマーキャンプに招待された。その後は日本の社会人リーグのオービックシーガルズでも活躍し、日本一にも輝く。今年2月にアメフト競技からの引退を発表した。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。