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「日本人があの舞台にたどりつくために必要なのは…」 “NFLに最も近づいた選手”が語った「身体能力でも、英語でもない」ある要素とは?
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph byKanta Takeuchi
posted2023/07/18 17:01
アメフト引退後の木下は、ロス五輪を目指してフラッグフットボールの普及につとめている
身体能力面は「時間はかかるが不可能ではない」
この議論になると真っ先に上がる身体能力に関しては、意外にも木下は非常にポジティブだ。
「僕の中では『絶対に無理やな』とは感じなかったんですよ。もちろん慣れる時間が必要だとは思いました。キャンプも言うても1カ月しかない。2007年のキャンプとオープン戦に続いて2008年は外国人練習生の形(※ロスター昇格はないが、翌年以降の契約可能性のある非米国籍の選手がチームに帯同できる)で1年間チームに帯同したんですけど、時間をかけることで慣れることができていたと思います」
万人に共通のことでもあるが、レベルの高い環境に身を置くことで自身のレベルは引き上げられる。そして木下にとっては、NFLであっても「時間さえあれば十分、手が届く」と思えるレベルだった。
「僕はもともと歴代日本人選手の中で突出して運動能力が高かったわけではありません。だから他の日本人選手であっても身体能力面で言えば、十分可能性はあると思います。もちろん日本のトップ選手が挑戦するという大前提はありますが、日本人の勤勉さとかは他にない強みでもありますから」
木下は当時存在したNFLヨーロッパというNFLの下部リーグを経由してNFLに参戦した。欧州にもとんでもない身体能力の選手はいたが、スカウトたちは能力面だけでなく、同じくらいに「規律を守れるかどうか」を見ていたように感じたという。自律ができない選手は、どれだけ能力があっても決してNFLに昇格することはなかったからだ。
「米国で驚いたのは、NFLの選手って能力だけじゃなく、自律する力がとても高いんです。それが選手生来のものなのか、組織がそうさせているのかは分からないですが、能力があっても練習に遅刻したり、飲みすぎたり、日常生活に難がある選手は呼んでもらえない。勤勉さがすごく評価される。そういう面は日本人に有利なところだと思います」
日本人がNFLに挑む「2つの手段」
一方で、木下が経由したNFLヨーロッパという舞台は、2008年にNFLの経営方針変更に伴い消滅を余儀なくされた。そのため、かつてと比べて日本人がそもそもNFLに挑むためのステージにあがるハードルはより高くなっている。
「いまの日本人選手だとNFL主催のトライアウトを受けるか、若い選手であれば現地の大学で活躍してドラフトにかかるくらいしか現実的な手段がありません。
トライアウトでセレクトされるには、NFL選手と比べても飛び抜けるぐらいの数字を残さないと目には止まらない。年齢によっては今後の成長を期待して……というケースもあるかもしれませんが、それでもかなりのレベルが必要です。当然ですがそのクラスの成績を出すのは現実的には相当、難しい」
では、10代などの若い選手が高校・大学から現地校に入り、通常のドラフトなどにかかる方法はどうなのだろうか? NBAでは八村塁や渡邊雄太がこの形で夢舞台に立っている。
「個人的にはNFLに関して言うと、高校や大学のうちからアメリカに行くことで、成功確率がどこまで上がるのかは疑問です」