Jをめぐる冒険BACK NUMBER
マラドーナ、リケルメが愛した「世界一危険なスタジアム」ボンボネーラ生観戦で見た“熱狂と怪しさ”「アミーゴ…俺に任せれば問題ない、安心しろ」
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byAtsushi Iio
posted2023/07/07 17:01
「世界一危険なスタジアム」ボンボネーラ。現地で見た熱狂、怪しさは強烈なものだった
ブラジルは5回訪れたことがあるのに、アルゼンチンには行ったことがなかった。サッカーについて何かしら書くことを生業としながら、子どもの頃のスーパーヒーロー、神童ディエゴ・アルマンド・マラドーナ(当然だが世代的にレオ・メッシではない)が生まれた国に1度も行ったことがないなんて……。
さらに言えば、そのマラドーナや天才フアン・ロマン・リケルメ(今はボカの副会長らしい)がかつて在籍したボカの試合を、ホームスタジアムでどうしても見てみたかった。
ゴール裏の金網に命知らずがよじ登り
ブエノスアイレスのボカ地区を本拠地にするボカは、労働者層からの絶大な後押しを受ける人気クラブだ。同じくブエノスアイレスをホームとし、富裕層に支持されるリーベル・プレートとの「スーペル・クラシコ」は、世界で最も熱狂的なダービーとして知られている。
ボカのホーム、ボンボネーラは「世界で最も危険なスタジアム」とも言われ、僕が敬愛するメガネの大先輩Hさんも、「死ぬまでに1度は行くべきだよ」と話していた。
YouTubeには、黄色と青の発煙筒がバンバン焚かれ、ゴール裏の金網に何人もの命知らずがよじ登り、大量のトイレットペーパーが投げ込まれる動画が、何本もアップされている。
ネットで検索すると、「ボンボネーラで行方不明になったメキシコ人」など、危険な香りのする記事がゴロゴロ出てくる。
これは、マジで、やばそうだ……。
そんな鳥肌もののスタジアムに行く機会が、ついに訪れようとしている。
さて、チケットをどうするか。
それなりに長くこの仕事をしているとコネクションが生まれるもので、同業者の友人Aのそのまた友人のSがチケットの入手経路を知っているというではないか。
さっそくお願いすると、手に入りそうだという。ブエノスアイレスでスポーツ店を経営しているマルセロが手配してくれることになった。
マルセロの店を訪ねたのは、松木玖生がミドルシュートを決め、日本がセネガルとの初戦に1-0と勝利した翌日のことだ。
Sの友人(本当は友人の友人)であることを告げると、一気に距離が縮まった。「Sは俺の東京の息子だ。そのアミーゴなら、大歓迎さ」とマルセロは言った。
マルセロはカタコトの英語を喋るし、お互いに翻訳アプリを介してコミュニケーションを取るから、意思の疎通は問題ない。
「俺に任せておけば、問題ないから安心しろ」
希望したチケットは、5月28日のナイトゲーム、ボカ対ティグレ戦。前日にU-20日本代表のイスラエル戦がメンドーサであるから、翌日にブエノスアイレスに戻らなければならない。
「俺に任せておけば、問題ないから安心しろ」
そう言って胸を張り、マルセロはチケット代を要求してきた。