Jをめぐる冒険BACK NUMBER
マラドーナ、リケルメが愛した「世界一危険なスタジアム」ボンボネーラ生観戦で見た“熱狂と怪しさ”「アミーゴ…俺に任せれば問題ない、安心しろ」
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byAtsushi Iio
posted2023/07/07 17:01
「世界一危険なスタジアム」ボンボネーラ。現地で見た熱狂、怪しさは強烈なものだった
やや高めながら金額は想定内だったけれど、カードが使えないということに考えが及ばなかった。財布の中の小額紙幣までかき集めて支払い、お礼を兼ねてボカのマフラーを購入したら、財布の中はすっからかん。1週間後の再会を誓って店を後にした。
一方、若き日本代表は、コロンビアとの第2戦、イスラエルとの第3戦で立て続けに痛恨の逆転負けを喫し、勝ち点3の3位でグループステージをフィニッシュ。ノックアウトステージに進めるかどうかは、翌日の他グループの結果に委ねられることになった。
そんなわけで、わずかな可能性に期待しながらメンドーサに留まる代表チームと取材仲間を尻目に、僕はひと足早くブエノスアイレスに戻った。
おいおい、ここまで来てボラれたか?
マルセロの店に着いたのは約束の時間の30分ほど前。その日は日曜日だったから、店は閉まっている。憧れのボンボネーラでの観戦を前に、期待は高まるばかりだ。
ところが、約束の17時になってもマルセロが来ない。15分が過ぎても現れないし、ワッツアップもオフラインのまま……。
おいおい、ここまで来てボラれたか? いや、こっちは店の場所を知っているわけだから、逃げるはずはないよな……。
そんなことを繰り返し考えていると、17時半ごろにマルセロから電話が掛かってきた。
「早く大通りまで出てこい!」
まるでこちらが悪いとばかりに急かしてくる。てっきり電車で行くのかと思っていたら、自家用車でボンボネーラに向かうようだ。
車内でプラスチックのカードを手渡された。おそらくこれがソシオカードだろう。裏面にはこの日の対戦カードが書かれていた。
「アミーゴ、これはお前のだ。なくさないように持ってな」
車ですっ飛ばすこと15分、込み入った路地に進入していくと、車が十数台停めてあるスペースに着いた。どうやらその民間のガレージに車を置いて、スタジアムまで歩くらしい。
ブエノスアイレスのシンボルであるレッドウッドやジャカランダが生い茂るレサマ公園を突っ切ると、歌声と音楽が聞こえてきた。ちょっと治安の悪そうなその路地はボカのサポーターでごった返している。トランペットで吹かれるチャントに合わせて、ビール瓶片手に飛び跳ねながら、野太い声で歌い続ける男たち。
とにかく顔が広いマルセロ、孫娘を見ると
彼らをかき分け、ぐいぐいと進んでいくうちに気づいたのだが、このマルセロ、とにかく顔が広い。やたらと握手し、ハグし、会話を始めて、「ハポネス」と僕を紹介する。