Jをめぐる冒険BACK NUMBER
マラドーナ、リケルメが愛した「世界一危険なスタジアム」ボンボネーラ生観戦で見た“熱狂と怪しさ”「アミーゴ…俺に任せれば問題ない、安心しろ」
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byAtsushi Iio
posted2023/07/07 17:01
「世界一危険なスタジアム」ボンボネーラ。現地で見た熱狂、怪しさは強烈なものだった
なかにはイカつい男もいたが、僕の首に巻かれたボカのマフラーが奏功したのか、みんな「アミーゴ!」とハグしてくる。こちらも「アミーゴ!」と言えばすべてオーケーといった具合。
しばらくしてマルセロの娘のバレンティーナと孫のカテリーナ(バレンティーナの娘ではなく、長男の娘)が合流した。コワモテのマルセロが、孫娘に対しては、デレデレしたおじいちゃんに早変わりする。
「ゴール裏に行けば、スマホや帽子も…」
さらに5分ほど歩くと、青と黄色のスタジアムのシルエットが浮かび上がってきた。憧れのボンボネーラだ。
人混みの中をマルセロとはぐれないように必死で付いていき、ゲートを通過してスタジアムの中へ。たどり着いたのは、バックスタンドのコーナーフラッグ付近のシートだった。周りにはバレンティーナとカテリーナだけでなく、女性や子どもの姿も目立つ。さらには、スマホで撮影している人たちの姿も。
ブエノスアイレスでは、街中で携帯電話を手持ちしている人はほとんどいない。かっさらわれる危険性があるからだろう。
ところが、「世界一危険なスタジアム」でスマホをかざしている人が何人もいる。どうやらこの辺りは、僕のような一見さんでも安心して観戦できる、ボンボネーラの安全地帯のようだ。
「ゴール裏に行けば、スマホはもちろん、帽子もすぐに行方不明になるぞ」
マルセロがそんなふうに煽ってきた。
さあ、いよいよ選手が入場。スタンドではボケンセ(ボカのサポーター)による定番のチャント「ボカ・ミ・ブエン・アミーゴ」が響き渡る。Jリーグのサポーターには、FC東京の「おお、俺のトーキョー」でお馴染みかもしれない。
可愛らしい女の子の罵声に大人が思わず苦笑い
34度のリーグ優勝を誇るボカだが、現在は中位に沈んでいる。世界的に有名な選手もおらず、相手も下位のティグレだけに試合内容はお世辞にもレベルが高いとは言えなかったが、それでもそこはアルゼンチン。局面でのぶつかり合いは激しく、隣の人の声すら聞き取れないような喧騒にもかかわらず、足と足がぶつかり合う音が聞こえてくるようだった。バチバチ!
スコアはあっけなく動いた。前半12分、ボカのなんでもないコーナーキックを相手GKが取り損なったところを、ウルグアイ人FWミゲル・メレンティエルが蹴り込んで先制。結局、このゴールが決勝点となってボカが1-0で勝利した。
スーペル・クラシコではないから、死の恐怖を感じるようなシーンに出くわすことはなく(負けていたら、どうなっていたか分からないが)、ボケンセの声量に圧倒されっぱなしの90分だった。
彼氏と来ていた隣の可愛らしい10代の女の子が、おそらく口汚い言葉で罵っているのには、僕を含めて周りの大人も苦笑いを浮かべていた。