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[パイオニアの時代]野茂英雄の「憧れ」から世界は広がった
posted2023/07/09 09:01
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph by
Kazuaki Nishiyama
1995年、日本人投手の歴史を切り開いた男の目は、メジャーリーガーを前に輝いていた。当時最強のブレーブス三本柱との邂逅を振り返る。
第5回ワールド・ベースボール・クラシック決勝戦。米国との決戦を前に大谷翔平がチーム・ミーティングでナインを鼓舞した言葉はファンだけでなく、野球に関わるすべての人の心を打った。
「今日一日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけを考えていきましょう」
世界最高峰のメジャーリーグの世界で、大谷が頂上に君臨できる理由。それはこのメンタリティーにあると感じた。
今から28年前。日本人としてメジャーの門戸をこじ開けた野茂英雄にも、大谷と同じく己を信じ、道を切り開く強さがあった。
だが、大谷とはちょっと違うところもあった。彼にとってメジャーリーガーは、まさに「憧れ」そのものだった。
近鉄バファローズの野茂が日本球界史上初となる新人からの4年連続最多勝、奪三振王など投手記録を独占していた時代、本拠地の藤井寺球場右翼ブルペン裏にあるトレーニングルームには、所狭しとメジャーリーガーのポスターが貼られていた。1988年に本塁打王、打点王、MVPに輝いたホセ・カンセコ、当時すでにサイ・ヤング賞を複数回受賞していた剛腕ロジャー・クレメンスなど、力で圧倒するメジャーの超一流選手のポスターを背に歯を食いしばり、彼はトレーニングに汗を流していた。
「メジャーの選手ってすごいパワーなんですよねぇ。力と力の勝負は格好いいですよねぇ」