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「黒人のためのボイコット」を求められても、人類初9秒台の黒人選手は五輪に出場した…ジム・ハインズが明かした“同調圧力に屈しなかった理由”<追悼>
posted2023/06/11 11:00
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph by
AP/AFLO
6月3日に76歳でこの世を去ったジム・ハインズ。1968年に世界初の100m9秒台を叩き出し、その速さで黒人の存在を全世界に示したレジェンドが2年前に語っていたのは……。
Number1030号(2021年7月1日発売)掲載のインタビュー記事“ジム・ハインズ「社会を変えるために」”を特別に無料公開します。※肩書は当時のまま
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スピードの夜
1968年6月20日、米国カリフォルニア州サクラメントで行われた五輪選考会。その夜は、今も『スピードの夜(Night of Speed)』と呼ばれている。
気温25度前後、スプリントには絶好の天候だった。
タイムは9秒9。
手動計測ではあったが、人類史上初めて100m9秒台が計測されたのだ。
歴史的な偉業を達成したのは、21歳のジム・ハインズだった。
「あのレースは、おそらく選手人生における完璧なレースだったと思う。10秒2~3台の選手が20人くらい揃っていた。予選から決勝まで3レースあって、タフな戦いだったのを覚えている」
世界最速に全米が熱狂
初の9秒台に全米が熱狂した。
「テレビや新聞、ラジオなどで大きく取り上げられて、すごくうれしかった。人類初、という響きに酔いしれた。ボブ・ヘイズ(1964年東京五輪100m、4×100m金メダリスト)やジェシー・オーエンス(1936年ベルリン五輪100mほか4冠)など過去の偉大な選手に並んだような気がした。世界で一番になる、世界最速になる、といつも口にしていたけれど、やっと達成できたと思った」
陸上を始めてわずか4年での快挙だった。