草茂みベースボールの道白しBACK NUMBER
30歳の左腕がマウンドから秘密のメッセージを送った相手は誰だった? 国指定の難病を克服した中日・福敬登が手話に託した復活の言葉
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2023/05/18 11:04
難病から復活しマウンドで躍動する福
福の場合は左足にしびれが出て初めて自覚したわけだが、骨化そのものはどこで起こっているかわからない。CTスキャンにより約36%の人に黄色靭帯の骨化が見られたという研究データがあるほどだ。従って、手術で症状は緩和されたが、しびれそのものは今も残っているそうだ。ボールを投げたり、練習を再開するまではさほどの時間は要しないが、むしろ復帰後も「うまくつきあう方法を考えないといけない」病気だといえる。
「オフの間でも少しお酒を飲むと、しびれが出ることもあった。なのでお酒はやめたんです」
「福投手もきっと大丈夫」三嶋の思いに…
野球ができなくなるかもしれないという恐怖と闘い、這い上がってきた。そんな不安を支えてくれた1人が、DeNAの三嶋一輝だった。ベイスターズの強力ブルペンの一翼を担う右腕もまた、昨年に同病の手術を経験。
リハビリを経て今シーズン開幕直後に一軍登板した。福がアドバイスを仰いだ先輩は、4月9日の中日戦でヒーローインタビューを受けた直後に、通常は素通りするはずのドラゴンズサイドのスタンドにもサインボールを投げ入れている。そこには直筆の「福投手もきっと大丈夫」とのメッセージが書き込まれており、それを知ったファンが思いを汲み取り、SNSで拡散した。
実は三嶋自身も治療の過程で、現役時代の2018年に同病の手術を受け、約1年後に一軍で復帰した元ロッテの南昌輝さんに相談している。年齢や職業に関係なく、病気と向き合うのは不安なものだ。もちろん家族や友人、ファンからの激励も励みにはなるが、経験者の言葉は重い。
福も書き添えた「もう大丈夫」のメッセージ
南さんから三嶋へ、三嶋から福へ……。そんな三嶋の思いは福にも伝わっており、勝ち投手になった巨人戦で、やはりヒーローインタビューを終えてボールにこう書き添えている。
「もう大丈夫」
見事なカムバックを、大声援を送ってくれるファンに報告したかったのだ。