- #1
- #2
フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
《独占》「ダイスケはお気に入りのライバルでした」パトリック・チャンが今明かす、現役引退・高橋大輔への思い「いつも温かく優しかった」
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byL)Asami Enomoto、R)AFLO
posted2023/05/12 17:04
現役引退を発表した高橋大輔への思いを、かつてのライバル、パトリック・チャン氏が明かした
「スケートが自信を取り戻してくれた」
こうしてアイスショーに復帰したパトリックは、今後は再びスケートの活動を増やしていく予定なのだろうか。
「はい、そう思います」と力強く頷いた。
「新しい仕事、初めて父親になってみて、ここ数年は戸惑うことが多かったけれど、スケートに復帰したら、自分にはまだまだやれることがあると自信を取り戻しました。試合に出ていた頃は、自分の才能や能力をそれほどありがたいと思っていなかった。でも今は朝は調子が良くても悪くても必ずスケートをしてから会社に出勤する。そうすると、気持ちがすっきりして、仕事もはかどって調子が良いんです」
パトリックがショーに意欲を見せる理由
彼がショーの活動に意欲を見せる理由は他にもある。今ツアーは、29年間このショーを牽引してきたカート・ブラウニングの最後のツアーでもある。1988年に世界で初めて4回転ジャンプを成功させたカートは、フィギュア史上最も芸術的なスケーターの1人とも言われている。多くのチャンピオンを輩出してきたカナダだが、カートの人気は他に比べるものがいないほどである。その彼が引退した後、誰が彼の立場を引き継ぐのか。
「正直言えば、カートの引退がこれほど精神的にインパクトがあるとは思わなかった。彼はいつでも周りにいてくれて、経験談を共有してくれました。彼が同じショーに出ていることがどれほど特別なのか、ちょっと慣れてしまっていたところがあった。彼の代わりを務めるというのは、簡単なことではありません。でもエルビスと僕とで、今後このツアーをどのように受け継いでいくのか、これから相談していこうと思っています」
「ダイスケとぼくが競っていた頃とは、ずいぶん変わった」
3度のオリンピックに出場したパトリックにとって、現在の競技スケートはどのように感じているのか。
「ダイスケとぼくが競っていた頃とは、ずいぶん変わりました。今は4回転ジャンプが5回も必要な時代になった。でも代わりに、何かが犠牲にならなくてはならない。カートやエルビスの昔のプログラム、『ドラゴン』や『カサブランカ』など、僕は子供のころテレビで見て未だに覚えています。でも今の採点システムでは、こうしたストーリーを氷の上で語ることができなくなりました」