濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
朝倉未来がRIZIN牛久戦後に語った「彼は詐欺師ですよ」その言葉には続きがあった…“逆ブレイキングダウン”的勝利に感じた“格闘家・朝倉未来”の本質
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2023/05/01 17:02
RIZIN LANDMARK 5にて牛久絢太郎との対戦中に笑みをこぼす朝倉未来
何度も引き込みを使った牛久の真意
スタンドでは常に前進、打撃で主導権を握った。だが、そのまま勢いに乗らせてもらえない。自分の動きが硬かったということもあるが、牛久の策に絡め取られた面もある。
打撃でどちらが上回るか。どちらがテイクダウンするか。MMAの基本は、まずはそこだ。ところが牛久は、組み付くと何度も引き込みを使った。自分が下になる形でグラウンドに持ち込んだのだ。
本来は不利な形なのだが、下からの仕掛けで未来を消耗させる作戦だった。三角絞めも得意だという。
「僕もそこまで寝技が弱いわけじゃない。あれはナンセンスだと思いました」
そう振り返った未来。現フェザー級王者のクレベル・コイケには下からの三角絞めで敗れているが「あれはクレベルだからできたことなので」。
牛久からすると、三角を極められればベストだが、そこにこだわってはいなかった。下から絡みつき、未来に対処させてスタミナを奪えればよかったのだ。
「1、2ラウンドは疲れさせて、3ラウンドは打ち合ってもいいと」(牛久)
実際、牛久は3ラウンドに打撃を返し、さらにタックルを決めた。立ち上がろうとする未来にヒザ蹴り。ヒットした感触もあった。だが、続けざまの攻撃が出なかった。咄嗟の反応で引き込みを選んでしまう。
「あそこで、なんでいけなかったのか。あの一瞬が……」
“逆ブレイキングダウン”のような一戦
結果は判定3-0で未来。スタンドでの優位がものを言った。的確なジャブ、要所で決めたボディブロー、さらに真下から顔面に突き上げるヒザ蹴りも印象に残る。
引き込まれた時も焦ってはいなかった。コツコツとパウンドを当てていき、同時に無理はしない。
上になった未来が体を起こして強いパウンドを打とうとしたり、立ち上がってスタンドに戻そうとすれば、そこに隙が生まれたかもしれない。牛久のチャンスはそこにあった。だが、未来はチャンスを与えない。展開が膠着するのを承知で密着、牛久の仕掛けを潰すことを優先したのだ。
今大会のチケットは前売りで完売。満員の大観衆が期待したような内容ではなかった。未来にもそれは分かっていたはずだ。彼がプロデュースするブレイキングダウンでは、選手たちが1分間休みなくバチバチと打ち合う。それが一番ウケることを知っているのだ。
だが、自分の試合では“熱狂”を捨てて勝ちに徹した。地味な攻防が続いても勝負を優先させ、まるで焦らない。それも彼の強みなのだ。いくつかあった勝負のアヤを一つひとつ自分のものにして、朝倉未来は勝利した。
「格闘家の朝倉未来のファンのみなさん、お待たせしました。ただいま」
逆ブレイキングダウンとでも言いたくなるような闘いを制して、未来は会場のファンに語りかけた。ブレイキングダウンのプロデューサーである朝倉未来と「格闘家の朝倉未来」は別なのだということなのかもしれない。