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「福投手もきっと大丈夫」DeNA三嶋一輝は同じ難病に苦しむ“闘病仲間”の名をボールに記した…本人が明かす「本当はヒーローインタビューで言いたかったんですけど…」
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph bySankei Shimbun
posted2023/04/24 11:04
4月9日、340日ぶりのハマスタ復帰のリリーフ登板で勝利に貢献し、お立ち台にも上った三嶋一輝。中日側スタンドに投げ込まれたボールには…
「ゼロではないってことですね。だから“完治”したという話ではないんです」
力強い真っすぐな目で三嶋は言った。その表情は、すべてを受け入れているという覚悟と、それでも抗い、明日を生き抜くといった気概に満ちているようだった。
ボールに書いた「福投手も、きっと大丈夫」
復帰を果たしハマスタでヒーローインタビューを受けた日、三嶋は試合後、中日側のスタンドにファンサービスのボールを投げ込んだ。そこには「福投手もきっと大丈夫」というメッセージが直筆で書き込まれており、SNSで大きな話題になった。
「ああ、あれですか……」と、三嶋は照れくさそうな表情を見せた。
「次の日にクワ(桑原将志)とかにすごい言われて、ああバレちゃったなって(苦笑)」
現在、三嶋と同じ『胸椎黄色靭帯骨化症』の手術をし、復帰を目指してがんばっている福敬登を応援するファンに向けてのエールだった。
「本当はヒーローインタビューで言いたかったんですけど、勝ったチームの選手がそういうことを言うのを嫌がる人もいると思ったので、ボールに書いたんですよ。福からは、同学年の福谷(浩司)を通じて連絡をもらったんですけど、僕が経験して知るかぎりのことは伝えました。本当、この病気のつらさってなってしまった当人にしかわからない。だから福のことは気になるし、彼のためにも、またこの病気で苦しんでいる人たちが見ているんだって思って、僕はがんばりたいんですよね」
投げているボールを見るかぎり、前例なき道を切り拓き、完全復活を果たしたとおぼしき三嶋であるが、まだシーズンは始まったばかり。通年活躍して初めて、三嶋は胸を張って「ただいま」と、言うことができるのだろう。
今回のことですごく思ったのは、ひとりじゃないんだってこと
「でもね、今回のことですごく思ったのは、ひとりじゃないんだってことですよ。僕は結構閉じこもったり、何でもひとりでやって解決して、人に頼らず生きていかなきゃいけないって思っていたんです。でも、こんなわがままな自分を、まわりの人はいつも支えてくれていたんだって、すごい感じたんですよ。もちろんファンの方もすごく心配してくれて、応援してもらって本当にありがたいなって……」
新しい肉体、新しい気づき。三嶋の物語は、まだまだ終わらない。「恩返しするためにも、1日でも長く活躍して、この野球人生をまっとうしなきゃいけませんね」と問いかけると、三嶋はこの日、一番いい笑顔を見せ答えた。
「ええ、これからっすよ。難病を患っても、“あいつまだやってんのかよ!”って思われるぐらいまで投げたいですよね」
道なき道を歩んだ生粋の負けず嫌いは、仲間とともに頂点を目指し、これからも常識を超えていく――。
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