ハマ街ダイアリーBACK NUMBER
守護神として好投続くDeNA三嶋。
「ヤスが注目される理由がわかった」
posted2020/08/29 11:30
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph by
Asami Enomoto
たとえクローザーを任されたとしても、また多くの人たちに賞賛を浴びたとしても、三嶋一輝の心のなかの“飢え”は決して満たされることはない――。
不調に苦しむ守護神・山崎康晃に代わって、7月終盤からプロ野球人生で初めてクローザーを任され、順調にセーブを重ねているDeNAの三嶋は、冷静に自分自身の立ち位置を見つめている。
「正直言って特別な思い入れがある場所だとはまだ感じられないんですよ。ただ、中継ぎピッチャーのひとりとして9回を投げている。それぐらいの気持ちでないといけないと思うんです。『俺がクローザーだ』という意識は必要なくて、勝っている試合の最後かもしれないけど、大切なのは気持ちと姿勢を見せることだけ。だから、今までとやることは変わらないんです」
クローザーであって、クローザーにあらず。三嶋はただひとりのピッチャーとして、これ以上ないしびれる場面で登場し躍動している。
「9回は、おまえで行くからな」
抑えで行くことをチームから伝えられたのは初セーブを挙げることになる7月29日の練習中だった。普段と同じようにキャッチボールをしているとき木塚敦志ピッチングコーチと目が合った。とくに呼び止めるわけでもなく木塚は三嶋にこう告げた。
「9回は、おまえで行くからな」
東京ドームの巨人戦。ブルペンの指示表には準備のため投げる順番が後方に記されていた。試合はDeNAリードで展開し、7回に山崎が投げ、8回にはパットンが呼ばれた。それまで半信半疑だった三嶋は、本当に行くことを実感したという。
「試合中に気持ちができあがったというか、いざ呼ばれて、よし行こうって」
ストレートはすべて150kmを超え、打者3人に対して2三振を奪うこれ以上ない内容だった。
三嶋は自分がやる仕事に変わりはないと言っていたが、一方で周囲の変化はこれまで経験したことのないものだった。