それだけ日々成長しつつある自分に、いま最も必要なものは何だろう。

　さやか「やっぱり、気持ち。メンタルの強さが、もっと必要なのかな」

©Yuki Suenaga

　琢朗「わかってるじゃない。どの競技でも、相手と同じ力量、同じスキルだったら、最後に物を言うのはやっぱりメンタルだから」

　ただ、プロスポーツの世界に身を置く先輩として、父はこう指摘することも忘れない。

　琢朗「さやかはいま、自分が負けた相手との差を『もう少し』と言ったけど、プロの世界ではその『もう少し』の壁が意外に分厚い。なかなか打破できないものなんだよ。そこがこれからの試練になってくるだろう」

火が点いたとき

　さやかが本格的にテニスを始めたのは小学校1年生だった2013年。前年に琢朗が当時在籍していた広島東洋カープで現役引退し、内野守備走塁コーチに就任したこの年、単身赴任生活をしていた琢朗の元へ、母・詩織（47）、3歳年上の姉とともに、家族そろって広島の地へ移り住んでからだ。

　さやか「もともとは、東京にいたころ、お姉ちゃんがテニスをやっていたので、私もくっついて行ってやるようになったんです。広島でもテニスを続けて、初めて大会に出場して、そこで本格的に火が点いた感じかな」

　琢朗「地元の、小さな地域の大会でボコボコにされちゃった。相手は1歳年上の久保杏夏さんで、元サッカー日本代表・久保竜彦さんの娘さんです。あの試合のおかげでさやかに火が点いたようなものでした」

　さやか「すっごい悔しくって、それからしっかり練習に取り組むようになりました」

　琢朗「それで、広島で初めてさやかをテニスクラブに入れたんですよ。お姉ちゃんと同じクラブに。その後、お姉ちゃんは別のクラブに移ったんですが」

　さやか「お姉ちゃんが移ったクラブは結構厳しそうだったから、私はもう少し楽しくやれるところに残ったんです」

悪いところまで俺に似ちゃったら困るな（苦笑）

　そう言いながら、本格的に練習を始めると、日増しにテニスに没頭するようになる。

　さやか「あのころは、週に7日練習で、休みは2週間に1日ぐらい。コーチがいないときは、ママやお姉ちゃんと練習していました。ひとりのときもあったかな」

　琢朗「19年に家族みんなで東京へ戻ってきてからも、さやかはお姉ちゃんと別のチームに入りました。そうしたら小さな大会の決勝で姉妹対決になって、ボールより言葉のラリーがすごかった。まるで姉妹喧嘩（笑）。結果はお姉ちゃんが勝って優勝したんだよな」

　さやか「その次の試合は私が勝ちました。1勝1敗。最後は私が勝ったんです」

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