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《世にも恐ろしいスポーツ》「未練を断ち切って全部捨てたはず、なのに…」なぜかやりたくなってしまう…ヤバい“雪合戦”の話
text by
中村計Kei Nakamura
posted2023/04/07 17:46
4年ぶりに開催された「昭和新山国際雪合戦」。事実上、雪合戦の世界一を争う。写真は専用の製造機で雪球をつくる様子。雪球が割れないよう製造機で圧雪した上に、両手で固める
相手が投げる瞬間をねらってカウンター気味に投げるストレートや、相手がシェルター越しに顔を出すタイミングを先読みし、10センチ前後出ているヘルメットに雪球を的中させる精度。あるいは、まるでシェルターの向こう側が見えているのではないかと思えるほど、絶妙な角度で降らせる山なりの雪球。そして、それを紙一重のタイミングでかわすディフェンステクニック。
贔屓目なのだろうが、改めて、この世に、こんなにエキサイティングな競技は他にないのではないかと思わされた。
大会結果は、いい意味で、衝撃的だった。
2000年代に入ってから、長きに渡って雪合戦界に君臨してきたSKYWARD、第N回優勝札幌チーム(以下、N回)という40代から50代のベテランが主体の古豪がいる。その2チームが準決勝リーグで、木っ端微塵に粉砕された。SKYWARDは稲穂Blizzardという20代が中心のチームに。N回はNMTという半分が中・高生というチームに。
長い冬の時代、まるで土の中で養分を蓄えていたかのように、新芽が一気に吹き出していた。
もっとも勢いのあったNMTは決勝で、でぃくさんズ神出(以下、神出)に接戦の末、敗れた。神出は軟式野球で全国制覇を果たしたこともある野球チームのメンバーが中心となっていて、今大会で通算5度目の優勝を飾った。優勝回数が歴代最多となった神出は、史上最強チームと言ってもいい。NMTは、その神出とほぼ互角に渡り合ったのだ。近い将来、NMTの時代が来ることを予感させた。
ベスト8で涙を呑んだものの、競走馬の産地・日高から参戦していた20代のチーム、ロジックの躍進も鮮烈だった。ちなみに、ロジックとは知り合いの牧場が輩出したG1馬からとった名称だという。ロジックのメンバーは、小・中学生のときから雪合戦に親しんでいた選手がほとんどだ。
「雪合戦は一度、死んだ」
雪合戦はこれまで、30代、40代の経験豊富なチームでなければ、勝ち切れないという印象が強かった。近年、これだけ若いチームの台頭が目立った大会はなかったのではないか。そのことが関係者の気持ちを明るくさせていた。
阿野はこう意気込んでいた。
「来年はフル規格の大会に戻します。センターコートも作ります。今年は決勝に行ったチームには謝ったんだから。ごめんな、って」
補足ながら、当初、危惧したようなスポンサー離れはほぼ起きなかったという。
おそらく雪合戦は、未曽有のウイルス禍で一度、死んだのだ。私が「変わり果てた」と感じた今年の昭和新山は、死に行く姿ではなかった。新たに生まれ変わろうとしている姿だった。そう、思いたい。
来年になれば、雪合戦の酔いを忘れられないプレーヤーたちが、また、少しずつ聖地に戻ってくる。そして、NMT、稲穂Blizzard、ロジックの活躍に触発され、彼らに続く若い芽もまた吹くに違いない。
雪合戦用具をすべて処分したのに…
じつは、来年、私もまた選手として参戦してみたくなった。だが、まだ迷っている。というより、今は、迷っている振りをしておこうと思っている。心のロックを解除しようとした途端、どんどん前のめりになっていきそうな自分がいるからだ。