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甲子園準優勝ピッチャーの「その後」 早稲田大で絶望の日々→“フリーター生活”を経て…元仙台育英・芳賀崇が“高校教師”になるまで
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2023/04/05 11:01
2001年センバツの準優勝投手、芳賀崇がいま明かす「激動の高校卒業後」
味方の守備位置やバッター心理など、相手の気持ちになって考えることで自分やチームの指針が定まることを、彼は知っている。
「仙台育英がいる」モチベーション
仙台東のピッチャーは、技巧派の有銘孝太朗と速球派の野村亮佑が軸となっている。試合では野手も兼務する野村が言う。
「自分の場合なら、『速いだけで抑えられるわけではないよ』って、ピッチングの幅が広がるような指導をしていただいて。試合でも自分たちのやりたいことを尊重してくれます」
ショートの菊地椋太は、守備力向上の背景にピッチャー出身の監督の指導を挙げた。
「崇先生は、ピッチャー目線で『この場面なら三遊間を締めたほうがいいよ』とアドバイスしてくれるんで、守っていてピッチャーの気持ちが分かるというのもあります」
仙台東の野球に、色が付こうとしている。
芳賀が赴任した21年入学の彼らは、同年秋の初戦で仙台育英と対戦し、0-10の5回コールドで大敗した試合を目の当たりにしている。現時点での差は、あまりにも大きい。
エースの有銘は、力関係を認めつつ言った。
「全国制覇した仙台育英がいるってだけで、すごく刺激になります。強いチームと同じ県で戦えるっていうのが、自分たちのモチベーションとしていいのかなって思います」
主体性を磨くチームを監督が支援する。
芳賀は自分を「馬」だと表現した。
「コーチの『C』は『馬の蹄の形』と教わったことがあるんです。馬である監督の私は、行きたいところに連れていく役目。でも、目的地を設定し、手綱を引くのは選手です。それを伝えながら『どういう野球がしたい? どう頑張りたいの?』って。そんな毎日です」
0-10からのスタート。
仙台東は定期的に、自分たちを圧倒した覇者に胸を借りる。まだAチームよりBチームとの対戦が多く、その背中は小さく、あるいは見えていないかもしれない。
今は追いつくことはできないが、仙台東からは馬の力強い蹄の音が聞こえてくるようだ。
いつかきっと、跳ぶが如く、越えてみせる。
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