2ボール1ストライクからの4球目。不用意に置きに行った真ん中低めの147キロ直球を左翼席2階デッキまで打ち込まれ、先制を許してしまう。後に「大反省」と語った悔いの残る1球。続く7番リアルミュートはバットをへし折りながらも力でレフト前まで運ばれるなど、流れを断ち切ることができない。

逆境こそ覚醒のとき

　8番ムリンスは三振に斬ったが、9番アンダーソンにはセンター前ヒットを浴び、2死一、二塁のピンチを迎えてしまう。ここで大量失点となれば、アメリカのワンサイドゲームにもなりかねない大事な局面。座右の銘「逆境こそ覚醒のとき」を胸に、粘土質で固いマウンドを何度もスパイクで掘り、失投の芽を未然に摘み取っていく。

©Naoya Sanuki

　そして1番ベッツへの初球。低めに制球されたチェンジアップでレフトフライに打ち取り、2回1失点で後続へとバトンを渡した。

　結果的に、この回を最少失点で乗り切ったことが大きかった。その裏、先頭の5番村上宗隆がすぐさま同点本塁打、さらに1死満塁から1番ヌートバーのファーストゴロの間に1点を勝ち越し。4回には6番岡本和真の本塁打で広げたリードを最後まで守り切った。

自分が指導した生徒が最高峰の舞台で投げている

　座右の銘「逆境こそ覚醒のとき」は、高校時代の監督だった井上勝也さん（41、現香住丘高校監督）が送った言葉だ。卒業後も今永はグローブにそのフレーズを刺繍で入れ続けた。WBC決勝先発の大役を任された教え子が伝えた言葉を体現してみせた。

【次ページ】　サインの練習もしていましたし（笑）