- #1
- #2
野球クロスロードBACK NUMBER
「えっ、次の相手はダルビッシュ…?」20年前、甲子園で戦った花咲徳栄エース“2時間26分の記憶”「生徒に言っても信じてもらえない」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2023/03/24 11:00
20年前のセンバツ甲子園。花咲徳栄は、あの東北の怪物・ダルビッシュ有をいかに攻略したのか
「マジか! 東北……ダルビッシュ……これはちょっと、無理じゃないか」
この時の福本の実情はこうだ。
「本当に秀岳館しか見てなかったんです。埼玉県の代表として初めてセンバツに出させていただいたのに、大恥かいて地元に帰りたくなかったんで、トーナメント表とか全然見てなかったんですよ。だから、試合後にそう聞かれて『えっ?!』って(笑)」
ダルビッシュを攻略…その理由
東北戦。福本はいきなり猛打を浴びた。
140キロを超えるストレート、空振りを取れるスライダー、「伝家の宝刀」スプリットがことごとく打たれ、2回に5点を失った。
「東北ってダルビッシュ君ばかり注目されていましたけど、打線もめちゃくちゃよかったですから。真っ直ぐをコースに投げても打たれるし、スライダーもスプリットも捉えられるし。どうしていいかわからなかったし、気づいたら5点入ってたって感じでした」
花咲徳栄はしかし、その裏、ダルビッシュから3点を奪い返す。それは、しっかりとした裏付けのある得点でもあった。
145キロを超えるとも言われたストレート対策として、監督が「ダルビッシュは腕が長くて他のピッチャーよりリリースまでの時間が長いから、スイングの始動を少し遅くしよう」と、バッターたちに伝えていたのである。
岩井が狙いを明かす。
「2年生だったけど、当時からダルビッシュ君はピッチングがうまかった。ストレートのタイミングに合わせてバットを振ると、変化球でかわされることが分かっていたので、『そこを我慢しなさい』と。それがハマったということですね」
監督の助言…「カーブ投げてみろ」
3回終了時点で6-7。打線はダルビッシュを攻略できているが、こちらも同じように相手打線に掴まっていると業を煮やした福本は、岩井に救いの手を求めた。
監督が提案する。
「速いボールは全部タイミングを合わせられてるから、カーブ投げてみろ」
すると、閃いたように福本も応じる。
「じゃあ、スローカーブみたいにちょっと遅くしてみましょうか」
これが、東北打線封じの糸口となった。