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野球クロスロードBACK NUMBER
「えっ、次の相手はダルビッシュ…?」20年前、甲子園で戦った花咲徳栄エース“2時間26分の記憶”「生徒に言っても信じてもらえない」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2023/03/24 11:00
20年前のセンバツ甲子園。花咲徳栄は、あの東北の怪物・ダルビッシュ有をいかに攻略したのか
福本は4回から立ち直った。味方打線は変わらず活発で、6回まで12安打9得点を奪いダルビッシュをノックアウト。その後、福本が8回に2点を失い同点とされたが、9回裏にサヨナラで花咲徳栄が激戦を制した。
スコアは10-9。両チーム合わせて29安打19得点を記録した乱打戦は、福本たちの代にとって後にも先にもこの試合だけだった。
ダルビッシュに勝った――
福本が勝因をしみじみと語る。
「岩井先生のおかげでしたね。『こうするぞ』って強く言ってもらえることで僕らが暗示をかけられたというか(笑)。そこで誰かが打てば『行けるぞ!』ってなったし、僕自身もカーブを投げるようになってから『抑えられるかもしれない』と思えましたしね」
ダルビッシュに勝った――。
この収穫は花咲徳栄に自信を与え、なによりピッチャー・福本を大きくさせたのだと、岩井は大きく頷きながら言った。
「あの試合、ダルビッシュ君は調子が悪かったと思うけど、それでも135キロくらいの真っ直ぐをうまくコントロールして、ギアを入れたい時には140キロ以上のボールをしっかり投げてきていました。変化球を織り交ぜることも大事だけど、真っ直ぐも『全部、力いっぱい投げる必要はないんだよ』と思って、それを福本には伝えました。それが次の試合とかに生きてくるわけです」
多分、生徒に言っても信じてもらえない
20年前。野球人生でたった2時間26分だけ交錯したピッチャーは、メジャーリーグでも一流と呼ばれる選手となった。
福本にとってダルビッシュとは、昔も今も雲の上の存在でいい。甲子園で投げ合えたことを懐かしむだけでいいのだ。
「一生の思い出で十分です。別に自分から言うことでもないですしね。多分、生徒に言っても信じてもらえないし」
遠慮がちに話す福本の声には、幸福感がにじんでいた。
<つづく>
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