濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「基礎がない」「正直こんなもんか」人気団体スターダムが“外敵”の参戦で問われる実力…橋本千紘との対戦を狙う朱里の“真の目的”は?
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byMasashi Hara
posted2023/03/03 17:00
2月4日のスターダム大阪大会でMIRAIに勝利後、朱里と火花を散らした橋本千紘
MIRAIとの対戦は橋本の“完勝”
初参戦は2月4日、大阪でのビッグマッチだ。相手は朱里と同じユニットのMIRAI。昨年、後楽園ホール60周年のオールスター戦で橋本とタッグマッチで対戦している。その時はパートナーが敗れ、悔しさを晴らすために自分がまず闘いたいと朱里に訴えた。
試合は橋本の完勝だった。序盤のグラウンドから圧倒的だ。相手をマットに倒し、寝かせ、抑え込んでコントロールするという“レスリング”のベースが頭抜けている。
コブラツイストという古典的な技も橋本がやれば大迫力。さらにタックル、ラリアットでなぎ倒し、最後はかなり厳しい角度でオブライトを決めた。MIRAIが必死に反撃する場面もあったが、橋本を脅かすところまではいかなかった。橋本は再び「こんなもんですか」。そして「もうちょっと楽しませてよ」と朱里以外の選手との対戦を望んだ。これを受けて決まったのが、国立代々木競技場第二体育館大会(3月4日)でのひめか戦だ。
スターダムが問われる「人気はあるけど実力はどうなんだ問題」
1.6後楽園で、橋本はスターダムの試合を見た印象をこう語っている。
「もちろん朱里選手の強さは分かってます。でも正直こんなもんかって。これが今、求められてるものなのかなと。でも私がその概念をひっくり返す。私の“強さのあるプロレス”で、あのリングでも一番になります。試合を見て、強さもですけど足の運びだったり細かい動きがなってない、基礎がないなって。できてたのは朱里くらいですかね」
この言葉を心地よく聞いたプロレスファンも少なからずいたのではないか。現在の女子プロレス界はスターダム1強。“1人勝ち”の状態と言っていい。後楽園の動員力、ビッグマッチの回数など、どれも飛び抜けている。
とはいえ、あらゆるスポーツ、エンターテインメントは人気だけが基準ではない。「実力では負けない」、「内容ではこっちのほうが上」というプライドの持ち方もあるし「女子プロレスはスターダムだけじゃない」と考えているファンもいて当然だ。それぞれの団体に魅力があって、ファンは自分の感性にフィットする団体、選手を応援する。
そして“人気のスターダム”に対して実力で凌駕できるのが橋本千紘。そういうイメージもある。スターダムにどれだけ人気選手がいても、どんな大会場で興行を開催しても、一番強いのは橋本だと信じているプロレスファンがいて、橋本自身も強さを最大のアピールポイントとしている。
逆に言えば、橋本のスターダム参戦によって問われるのは、業界最大の女子団体の“強さ”だ。意地悪な見方をすれば「人気はあるけど実力はどうなんだ」ということになる。橋本に勝てる選手、あるいは真っ向から太刀打ちできる選手はいるのか。スターダムは人気だけなのか。プロレスはそれでいいのか。