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ダルビッシュ36歳「気負わず」に重み…大谷翔平、山本由伸や佐々木朗希ら超充実だからこそ願う「圧倒的エースを作らない」投手運用 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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photograph byHideki Sugiyama

posted2023/02/17 17:08

ダルビッシュ36歳「気負わず」に重み…大谷翔平、山本由伸や佐々木朗希ら超充実だからこそ願う「圧倒的エースを作らない」投手運用<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

2009年WBC強化合宿での松坂大輔とダルビッシュ有

 また杉内俊哉、和田毅、村田修一など同世代の選手=松坂世代のフラッグシップにもなった。そして2006年オフにはMLBの名門、ボストン・レッドソックスに入団する。入団時のポスティングフィーは5111万ドル余。レッドソックスでも2年連続二けた勝利と順調に実績を残しつつあったが――2009年のWBCを最後に暗転した。

 WBCでの登板過多の影響があったのか、あるいは偶然その時期に別のアクシデントがあったのかはわからない。しかし客観的事実として、松坂大輔は2009年WBCを最後に、エース級の投手ではなくなっている。

 もともとMLB球団は一線級投手の国際大会への派遣には、極めて慎重だった。それが松坂以降、エースの供出を拒むようになった。

 MLBのエースの多くは、複数年での大型契約を結んでいる。そうした投手が、MLBのペナントレースとは関係のない大会で故障や怪我をしてはたまらないし、球団の資産が大きく損なわれる。松坂大輔の蹉跌は、MLB球団にそういう教訓を与えたのではないかと思う。

イチローでさえもWBC後にコンディションを崩した

 2006年、2009年の松坂大輔の投球を子細に見てみると、両年ともに松坂はチームで最多イニングを投げた投手ではない。2006年は13回で、巨人の上原浩治(17回)、ロッテの渡辺俊介(13.2回)に次ぐ3位、2009年は14.2回で楽天の岩隈久志(20回)に次ぐ2位だ。

 しかし松坂は2006年は第2ラウンドのメキシコ戦、決勝のキューバ戦、2009年も第2ラウンドのキューバ戦、決勝ラウンドのアメリカ戦と、極めて重要な試合で先発している。

 甲子園の優勝投手として大試合になれば燃えたのだろうが――いつものシーズンなら調整途上の3月に最大出力で投げていた。また松坂は「使用球の違い」にも言及している。質感の異なるボールで全力投球したことも、その後のキャリアに影響を与える要因になった可能性もある。

 WBCでコンディションを狂わせたのは松坂だけではない。あの過酷なMLBで、全く故障知らずで19年もの長期間プレーしたイチローでさえも、2009年はWBCからマリナーズに戻ると極度の疲労と胃からの出血によってはじめて故障者リストに載り、開幕から8試合を欠場している。

 国を背負って戦うWBCは、使命感の強い日本人選手の心身に大きなストレスを与える。それを考えれば、頑張ってほしいと拍手を送ると同時に「無理しすぎないでほしい」とも思ってしまう。

今回のWBC先発陣は成績で見ても超充実

 今回のWBCの日本代表は、かつてなく充実した顔ぶれとなっている。特に先発投手陣は、日米のエース級が並んでいる。成績は2022年のもの。

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