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「いまだ未勝利」なのに大声援…プロレスラー・月山和香が観客を夢中にさせるワケ「才能もない。努力の成果も出ていないかも。でも…」
posted2023/02/09 17:02
text by
原壮史Masashi Hara
photograph by
Masashi Hara
「アリヴェデルチ!」
鈴季すずとのワールド・オブ・スターダム王座戦を制したジュリアが、お馴染みの挨拶で大会を締める。
2月4日は、スターダムにとって3年ぶりとなる声援アリの大会だった。エディオンアリーナ大阪の観客は、拍手ではなく声でジュリアに応じた。
『またな!』
会場中から返ってきたその言葉を聞いた赤いベルトのチャンピオンは、試合開始前に撮影した写真とはまるで別人のような柔らかい表情を浮かべていた。
「声出し解禁」を前にカメラマンが感じていた不安
この日の取材計画は、15時開始のスターダム大阪大会の前に神戸に寄り、11時開始のJリーグのプレシーズンマッチも撮影する、というものだった。
ヴィッセル神戸のホームであるノエビアスタジアムに着くと、試合前からすでに両チームのサポーターはチャント(応援歌)や声援を送っていた。プレシーズンのため観客数は多くないものの、このスタジアムは声がよく響く。アウェイの松本山雅サポーターも元気だ。
もっとも、スターダムと同じくこの日が声援解禁の特別な日だった、というわけではない。
Jリーグでは昨年夏から声出し応援適用試合を段階的に導入してきた。チームによって差はあるものの、かつての「当たり前」はすでに少なからず戻ってきている。2月11日に行われる開幕直前のビッグマッチ『FUJIFILM SUPER CUP 2023』(J1王者vs.天皇杯覇者)では収容人数の制限が撤廃され、さらに全席から声出し応援が可能になることが発表された。声を出して応援できることがプレミアムなシチュエーション、という時期は終わりを迎えつつある。
また、仮にこの試合が声援の解禁日だったとしても、声を出すこと自体への妙な気恥ずかしさや不自然さが試合中に顔を覗かせてスタジアムに違和感をもたらすようなことはなかっただろう。サッカーの試合では、選手がウォーミングアップに出てくる時、スターティングイレブンが発表される時、そして選手入場の時と、試合開始前に声を出すタイミングが何度もあるからだ。
神戸での撮影を終え、難波へ向かう阪神電車に揺られながら、「今日のスターダムの会場はどんな空気になるのだろうか?」と考えていた。
団体としての大躍進とコロナ禍のタイミングが重なったスターダムは、3年ぶりの声援“解禁”といっても、解禁ではなく初の声援となるファンが多いのではないだろうか? かつての日常をそもそも知らない人はどうするのだろう? サッカーのように試合前に声を出すタイミングがあればいいのだろうか?