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「いまだ未勝利」なのに大声援…プロレスラー・月山和香が観客を夢中にさせるワケ「才能もない。努力の成果も出ていないかも。でも…」
text by
原壮史Masashi Hara
photograph byMasashi Hara
posted2023/02/09 17:02
「声出し解禁」となった2月4日のスターダム大阪大会の第1試合に登場した月山和香(奥)。“アイコン”岩谷麻優を超えるほどの大声援を浴びた
「あと3カ月。それでダメなら、出ていってもらう」
中野たむ率いるコズミック・エンジェルズ(コズエン)に所属する月山は、2021年9月のスターダム移籍以来、ここまで1度も勝ったことがない。シングルだけでなく、タッグでもだ。
この1年を簡単に振り返ると、シンデレラトーナメントで鹿島沙希に敗れ、デビューして間もない天咲光由に自力初勝利を許し、ユニット対抗イリミネーションマッチではコズエンを抜けてジュリア率いるドンナ・デル・モンドへ移った桜井まいとのラスト1人対決に敗れた。さらに『5★STAR GP』出場権争奪リーグに挑んだものの、天咲に再び敗れるなど全敗。白川未奈の負傷により代役として出場したタッグリーグでは最終戦でまたも天咲に勝利を許し、全敗で終了した。
勝利が遠い月山だが、簡単に敗れてしまうわけではない。オースイスープレックスであわや3カウント、という場面や、ムーンライト・ドリーム(ハンマーロック式スープレックス)が決まれば終わり、という場面も少なくない。コーナーからはミサイルキックで飛んでくるし、極楽ドンやロープを利用した飛びつき式のコンプリートショット、パロ・スペシャルなど、ユニークな技も繰り出してみせる。
いつ勝ってもおかしくないのに勝てない。そんな月山を、ユニットのメンバーはサポートし続けた。上記の技の中にはコズエンとCOLOR’Sのメンバーの提案によって加わったものが多い。
月山自身、どれだけ負けて悔しくても、きっかけを掴もうと積極的な姿勢を崩さない。自身の試合の直後でもセコンド業務をこなしてみせるし、他のユニットの選手たちの試合も、出来るだけリングの近くで見学する。ラム会長との試合では色を反転させたフェイスペイントをしてみせたし、未勝利なのに羽南の持つフューチャー・オブ・スターダム王座への挑戦も実現させた。タッグマッチでは先鋒に名乗り出るだけでなく、大声でタッチを要求して出番を得る。勝利への思いが行動に表れており、それが相手にも周りにも届いている。
しかし勝てない。「自分が弱いだけ」「ごめんなさい」と言うようになった月山に、昨年12月16日、とうとう中野は「勝ってほしい、と心から思ってる。でも、勝つために決定的に足りないものがあなたにはある。それをあなた自身で補わなきゃいけない」と言葉をかけた。同24日には「あと3カ月。それでダメなら、コズエンから出ていってもらう」と期限を設けた。もちろん、勝てないから見放したのではない。その後も可能な限り月山の試合に付き添い続けている。「足りないなにか」は、自分で見つけなければならないのだ。