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衣笠祥雄は「ヤンチャするけど愛嬌がある」鉄人の若き日、キャンプ前の恐怖とは「高校の頃がいちばん…」〈江夏の21球以外にも名言〉
posted2023/01/18 17:01
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<名言1>
キヌはそういう口の利き方をするときもあるが、それは生意気じゃないんだよ。やんちゃはするけど、愛嬌がある。
(興津立雄/Number962号 2018年9月27日発売)
◇解説◇
鉄人・衣笠祥雄が在籍した頃の広島東洋カープは、超個性派の選手が集った集団だった。その中で衣笠は徒党を組むことはないながらも、人と人のつなぎ役をしていたという。それはチーム内だけでなく、取材に訪れたカメラマン(白スーツに黒の開襟シャツというなかなかド迫力な姿を撮影した経験あり)も積極的に飲みにつれていき、衣笠が勘定を“全部持ち”していたとの伝説もある。
一方で野球となると、こだわったのはフルスイングだった。ルーキー時代からブンブンとバットを振り回すスタイルで、練習中にも空振りすることが多かった。10学年上で当時の主砲だった興津立雄は「おいキヌ、そんなに振り回しても、ボールが当たらなきゃどうしようもねえだろう」と助言した。
それに対して衣笠は平然と「いつかは当たるよ」と言ったという。当時はまだ昭和の40年代。上下関係を考えればあり得ない問答(実際、興津からの“お仕置き”はあったようだが)でも受け入れさせてしまう“愛され力”が衣笠にはあったのだろう。
「江夏の21球」の際に衣笠がかけた言葉
<名言2>
オレもお前と同じ気持ちだ。ベンチやブルペンのことなんて気にするな。
(衣笠祥雄/Number790号 2011年10月27日発売)
◇解説◇
広島と近鉄が戦った1979年の日本シリーズは、第7戦までもつれる大接戦となった。その第7戦の9回裏、1点リードの場面でマウンドに立っていたのが、広島の抑えの切り札・江夏豊だった。ノーアウト満塁の大ピンチを無失点に切り抜け、歓喜の渦ど真ん中で至福の時を迎える。これがかの有名な「江夏の21球」だ。
しかしこの時、当の本人はベンチにいる古葉竹識監督と戦っていたという。原因は、古葉監督がブルペンで池谷公二郎と北別府学の2人を準備させたこと。これを見た江夏は怒ったのだ。
「それよ、オレが頭に来たのは。わざわざ2人も、しかもオレの目の前で……何を慌てとんねん、誰が慌てとるんや、バカたれが、という思いやった」
後からこの真相を知ったという古葉は、2018年に実現した江夏との対談でこう弁明する。
「延長になって試合が長引いたら、江夏のところで代打を出すケースもあるかもしれない。だから身体を動かして準備しとけよって……あの場面で江夏を代えるわけがないし、代えるつもりなんて100%、なかったんです」
ムッとした江夏は、ノーアウト満塁の場面で代打・佐々木恭介にあわやという鋭いファウルを打たれている。江夏は「あれは、打ってもファウルにしかならないボールを投げたんだよ」とその投球を振り返っている。
そしてそこにすかさず駆け寄ったのが盟友・衣笠祥雄である。