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衣笠祥雄は「ヤンチャするけど愛嬌がある」鉄人の若き日、キャンプ前の恐怖とは「高校の頃がいちばん…」〈江夏の21球以外にも名言〉
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NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
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posted2023/01/18 17:01
鉄人・衣笠祥雄。走攻守すべてのプレーで全力を尽くし、試合に出続けるという価値の高さを示した野球人だった
江夏の球筋を見た上で衣笠が“声かけ”したのかは定かではない。しかし「ブルペンのことなんて気にするな」という衣笠のひと言で冷静さを取り戻した江夏は、佐々木を三振に打ち取ると、次打者・石渡茂のスクイズ失敗を引き出し、広島を日本一に導く。そのターニングポイントには山際淳司氏が名作「江夏の21球」で描いた名場面があった。
MLB通算512発スラッガーから“ナゾのアドバイス”
<名言3>
男はドライマティーニを飲んだぶんだけ、ホームランを打つことができる。
(エディ・マシューズ/Number962号 2018年9月27日発売)
◇解説◇
1970年のオフ、衣笠はアメリカの教育リーグに派遣されていた。68年からレギュラーポジションをつかんでいたが、70年の成績は打率.251、19本塁打57打点と過去2年と比べてほぼ横ばい。さらに最多三振(81)を喫するなど何かを変えようという思いがあったようだ。
その教育リーグで出会ったコーチに、メジャー通算512本塁打を放ったエディ・マシューズがいた。スランプに陥った衣笠が本塁打を打つコツを尋ねると、マシューズは「ドライマティーニを飲むことさ」と答えたという。
なんとも昭和っぽさが残るハードボイルドなコーチングだが……71年、衣笠は打率.285、27本塁打82打点の成績を残す。さらにこのシーズンから引退する1987年まで、シーズン全試合に出場するという快挙を成し遂げたのだった。
キャンプ初日の打撃練習の初球の“恐怖”
<名言4>
今年はほんとにヒットが打てるのか、ホームランが打てるのか。去年までは出来ていたことが、今年もし出来なかったらどうしよう……そんなことばっかり考えますよ。
(衣笠祥雄/NumberWeb 2019年1月16日配信)
https://number.bunshun.jp/articles/-/833193
◇解説◇
衣笠は「試合に出続けること」で野球史に名を刻むレジェンドとなった。
今も燦然と輝く2215試合連続出場を含むプロ23年間で2677試合、504本塁打1448打点266盗塁。打点王に輝いた84年にはMVPを獲得し、ベストナインも3回受賞している。そんな衣笠でも、プロの世界で戦い続けることの“恐怖”を感じていたのだという。特に2月1日、プロ野球選手にとっての元日とも言われる瞬間についてだ。
「キャンプの初日の最初のバッティング練習の初球ですよ、いちばん怖いのは。これを芯で捉えられないと、打ち損じますとね、結構落ち込みますよ。もちろん、絶対態度には出しませんけどね」
平安高校(現・龍谷大平安高)の4番打者として鳴らした衣笠だったが、外の変化球と内角のストレートの配球に対してプロ入り後、常に苦しんでいたそうだ。
「高校の頃の、あれもこれも出来なかった頃がいちばん楽しかったですよ……」
旧知の記者に漏らした、衣笠の言葉だ。そういった苦悩・葛藤を乗り越えて、超一流の選手であり続けた。
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