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まさかの出遅れ、シード権ギリギリ…箱根10位・東洋大はなぜ苦しんだ? 主将の反省と、監督の“安堵”の中身「最低でもシード校でいなければ」
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph byJIJI PRESS
posted2023/01/17 17:00
箱根駅伝10区を走り、総合10位でフィニッシュした東洋大学の清野太雅(4年)
「失敗しても経験値になる。それができるのが学生かな」
「失敗しても、それで学ぶことができれば経験値になる。それができるのが学生かなと思います。常々アップデートは必要だと思いますし、指導者としても、新しいことに取り組み、気付きがあったほうが面白いですよね」
酒井監督は、東洋大の監督に就任し14年目のシーズンを迎えた。そのうち箱根駅伝の優勝は3回、2位が5回、3位が3回と圧倒的な戦績を誇る。もちろんシード権を逃し予選会に回ったことはない。
これだけの成功体験がありながらも、単に前年を踏襲するのではなく、アップデートしながらも、新たな試みを行ってきた。
今シーズンであれば、夏に上級生が北海道マラソンに挑み、駅伝シーズン開幕直前には主力がこぞって1500mのレースに出場するなど、新しいチャレンジを敢行している。
また、昨夏は世界選手権が行われた陸上競技の聖地・オレゴンに、エース格の松山と石田を連れて行き短期合宿を行った。もちろん世界選手権は現地で生観戦。そこでは大きな衝撃を受けた。
「マラソンでも、ため息が出るぐらいのスピードが必要ですし、トラックのスピードや駆け引きは、ロードにも繋がるところがたくさんあると思いました。世界選手権のあの雰囲気、特に今回の会場のヘイワード・フィールドの雰囲気に触れて、陸上競技って面白いなって思いましたし、オレゴンで感じたことは大きいです」
酒井監督に駒澤・大八木監督がかけた言葉
現地で感化されたことが大きかったからこそ、酒井監督はすぐさま行動に移した。
「駅伝はやらなければいけないことですけど、他のことも見据えながらのほうが、選手たちも、いろんなことに気付けるのかなと思っています」
1年間の成否は、どうしても箱根駅伝の結果だけで判断されがちだが、こういった試みの成果は一朝一夕に表れるものではない。それは少し先かもしれないし、さらに言えば、選手が実業団に進んでから一気に開花することもあるかもしれない。今シーズンの東洋大を見ていると、特にそのように思う。
『長くやっていると、我慢しなければいけない時がある。その中でも、常に世界を見据えた指導をしなければいけないぞ』
同郷の先輩でもある駒澤大・大八木弘明監督(3月に勇退)から、酒井監督は常々こんな言葉をかけられているという。かつて“平成の常勝軍団”と呼ばれた駒澤大も、シード落ちするなど苦しい時期を経て、再び箱根の頂点に立った。
東洋大が箱根駅伝を最後に制したのは第90回大会。10年も遠ざかっていることになるが、なんとか上位には踏みとどまってきた。アップデートを重ねつつも、チャレンジし続ける限り、再び頂点に立つチャンスは巡ってくるだろう。
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