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箱根駅伝の古豪・東農大から“入部拒否”も100km世界王者に…食品スーパー勤務、岡山春紀の逆転人生「陸上部には負けたくない、見返してやる」
posted2023/01/09 11:02
text by
酒井政人Masato Sakai
photograph by
JAAF
2022年8月27日にベルリン・ベルナウ(ドイツ)で開催された第31回IAU100km世界選手権。日本陸上界では無名の選手が世界中のウルトラランナーから喝采を浴びた。岡山春紀選手(コモディイイダ)が100kmを6時間12分10秒(世界歴代3位)で走破。見事、「世界一」に輝いたのだ。
岡山は実業団チームに所属する選手だが、ニューイヤー駅伝や箱根駅伝には一度も出場したことがない。それどころか大学時代は箱根駅伝の古豪から入部を断られている。いくつもの挫折を乗り越えて、岡山は世界一に駆け上がった。
上記の文章を読むと、屈強なスーパーマンかと思うかもしれない。しかし、岡山春紀は力強さとは対照的なランナーだ。ただ、彼の壮絶な競技人生を知ると、夢に執着する者の“強さ”を知ることができる。
東農大で箱根駅伝出場という目標もタイムが足りず…
岡山は市民ランナーだった父親の影響を受けて競技を開始。中学時代に結果を残して、熊本県の強豪である鎮西高に特待生として入学した。しかし、故障が多く、ほとんど走ることができなかったという。それでも大学では箱根駅伝を目指そうと考えていた。
「実家が農家だったこともあり、東農大に憧れていました。勉強と競技を両立できますし、当時(2010年には箱根駅伝で5位)の東農大は強くて、カッコよく見えたんです」
ただ高校時代の競技実績では東農大にスポーツ推薦で入ることはできない。それでも、「将来は熊本県の農業に貢献しようとする人物」の枠で一般推薦入試を受けて、合格した。
入学時も故障中だったため、まずはサークルに入り、競技を続けた。そして1年後、東農大陸上部に仮入部するも、入部条件が課せられる。それは7月までに5000mで15分00秒を切ることだった。高校時代のベストは15分25秒。練習についていくことができず、故障が続く中、どうにか出場した7月の記録会で夢は散った。