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紀平梨花(20歳)が2年ぶりの全日本フィギュアで示した復活ロード「不運は自分で作ったもの」「来年は生まれ変わったような自分を…」
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byAsami Enomoto
posted2022/12/29 17:02
全日本フィギュア選手権に出場した紀平梨花。2年ぶりの舞台は合計188.62点で11位だった
演技中に「すべてを悟って受け入れたという感じ」
「演技しているうちに、すべてを悟って受け入れたという感じでした。朝の練習では身体が良かったのですが、(試合の)夜の時間帯は感覚が変わっていました。不運を寄せ付けないくらい、身体が動く状態に持って行きたかった。それくらいの強い気持ちで臨んでも良かったな、と反省点があります」
本番で溝にハマることは、まれに起こる。しかし自分にもっと強さがあれば、不運を寄せ付けなかったというのだ。ショートは11位発進。フリーに向けては、強い気持ちを前面に押し出した。
「ショートは全然自分の滑りではなくて『何のために練習してきたんだろう』って思いました。フリーまであと1日あるので、3回転ルッツも入れなきゃ、と思います」
ところが、3回転ルッツを解禁したとたん、フリーの朝練習で3回転ルッツが1回転にパンクする。嫌な予感が走った。
「思い切り痛めてしまった、という感じでした。そこからはルッツもフリップも練習ができませんでした。もし大きく悪化したら、(全日本選手権だけでなく)今後の試合にも支障が出る。ブライアン先生と相談しました」
何とかもってくれて「足さんありがとう」
出した結論は、「ルッツは回避し、フリップは1本」。フリーでの挽回は望めないジャンプ構成である。しかし、その運命も受け入れた。
「全日本に戻ってこられて、昨年は出られなかったので、自分の滑りをこの舞台で出来るのが幸せなこと」
本番直前、名前を呼ばれる直前にオーサーコーチが、さっとビニールテープを差し出す。紀平はそれを右足首にグルリと巻いた。1枚のテープに、右足首への祈りが込められているかのようだった。
「タイタニック」の名曲に乗り、連続ジャンプと3回転フリップを軽やかに決める。緩急あふれる滑りとしなやかな身のこなしで、満場の観客を惹き込んでいった。演技を終えると、ホッとした表情で小さくうなずいた。
「何とかもってくれて『足さんありがとう』と思っていました」
完璧な演技ではない。しかし観客はスタンディングオベーションだった。それだけの風格と美しさがあった。オーサーコーチも「Beautiful! Good job!」といって出迎えた。フリーは8位で、188.62点での総合11位。自分の立ち位置をしっかりと見つめた。