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「イチローなら絶対にやってくれる」「客が木によじ登って試合を…」不人気だったオリックスに熱狂…“1995年の神戸”に野球は何を見せたのか
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKYODO
posted2023/01/17 06:01
1995年、パ・リーグを制したオリックスの選手たち
「弾けちゃって、弾けちゃって。シーズン中は見たことのないような表情でした。本当はそっちの方が彼本来の表情なのかもしれませんけどね」
現在でも、オリックスのホームページには'95年のシーズンを特集したページが設けられている。その中に'05年に仰木彬が語ったこんな言葉が残されている。
〈今はグラウンドとスタンドの一体感をつくるため、メジャー式の球場になっているが、あんな取って付けたものじゃない。当時は本当に一緒にやっていた。(ベンチ入りの選手の)25人で戦っているのではなく、何万、何千人で相手を圧倒した。〉
当時のオリックスはお世辞にも人気球団とは言えなかった。それでもファンはイチローとオリックスを見るために球場に駆けつけ、そして酔った。
古きよき野球。'95年のオリックスは、もしかしたらそれを最後に実現したチームであったのかもしれない。
95年の神戸と野球と。
あの年、グリーンスタジアム神戸で開催された試合は、ほぼすべてが満員だった。そのため球場に入りきらなかった客たちは、レフト後方の木によじ登って試合を眺めていたものだ。
平井はそんな客を見つけるたびにこう思っていたという。
「お、今日も、お猿さんがきてるな」
東日本大震災が起きたとき、「野球で勇気を与えるなんて言うのはおこがましい」と発言した選手がいた。わからないでもない。だが'95年、グリーンスタジアム神戸に足を運んだ人たちは、少なくとも、ほんのひとときだが、すべてを忘れ、野球を楽しんでいた。
あのとき、神戸の人たちにとって、それ以上に掛け替えのないものなどなかった。