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「通勤電車に乗るのも初めてで…」プロ野球選手→不動産の営業マン、武藤祐太33歳が明かす“引退からの1年”「目標は現役時代より稼ぐこと」
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byYuki Suenaga
posted2022/12/28 11:03
昨年、戦力外通告を受け、野球界を離れる決断をした武藤祐太。現在、不動産営業の仕事に打ち込む武藤に話を聞いた
ファン感謝祭の日にバスで感じた「寂しさ」
ファンの大切さや一緒にブルペンを守ってきた仲間たちの奮闘が心に染みた。自分もたくさんの観衆や仲間に見守られてあそこで投げていたんだ、と。
「あとベイスターズのファンフェスティバル(11月26日)の日に通勤バスでファンとおぼしき人と一緒になったのですが、気づいてもらえず正直寂しかったですね(笑)。その方はハマスタに行くのをすごく楽しみにしている様子で、プロ野球の影響力というか、そういう世界で自分もプレーできていたんだっていうのは、自分の誇りですよね」
余韻を残すように武藤は、そう語った。
学生野球資格はお守りとして…
先に武藤は引退後に「選手のサポートをしたかった」という話をしていたが、いずれ野球界に復帰したいという思いはあるのだろうか。
「うーん、どうでしょうね。教えるのが好きなので、学生野球資格は回復してお守りみたいな感じで持っていますけど、今はこの世界で活躍したいって気持ちのほうが強いですね。社長からも『お前なんかすぐだよ』って発破をかけられていますし、目標は現役時代よりも稼ぐこと。本当、元プロ野球選手といったプライドなんて持っていたら絶対に通用しない世界。けど、あのときの悔しさだけは持っておかなければいけない。今に見とけよって」
そう言うと武藤はニヤッと微笑んだ。
引退から1年後に寄せられた、あるメッセージ
今年の10月23日、営業先をまわっているとき恩師の北監督から電話があった。
「今日で引退をして一年だな」
その言葉を訊いて、ああ、そうだったなと武藤は気づいたという。毎日が必死でそんなことを考える暇はなかった。そして、心から尊敬をしている北監督の気づかいが嬉しかった。
するとその後、引退試合に来ていた高校の同級生から、スマホ写真が送られてきた。そこには引退試合のチケットの半券が写されており、次のような文面が添えられていた。
「これでやっと捨てられるわ」
どうやら同級生は武藤が一年間サラリーマンをつづけられないと思っていたらしく「よく一年間堪えたな」とメッセージをくれたのだ。
それを見た瞬間、武藤の目頭には熱いものがこみ上げた――。
まだ、よちよち歩きのサラリーマン。武藤は家族のために地に足を着け、夢を心に、今日も寒空のもと営業先へと赴いている。
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