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“障害界の絶対王者”オジュウチョウサンが相棒・石神深一とラストランへ…「乗っていて感動しました」武豊も唸らせた最強ハードラーの足跡
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byPhotostud
posted2022/12/23 17:00
2021年の中山大障害を制したオジュウチョウサンと主戦の石神深一。数々の記録を打ち立てた不世出の障害王が、ついにラストランを迎える
今となっては意外に感じられるのだが、オジュウが連勝を始めた最初の1勝目、16年春の中山グランドジャンプが、石神にとってのJ・GI初勝利だった。押しも押されもせぬ障害のトップジョッキーは、オジュウとともにのし上がってきたのだ。
どの取材者も、石神とオジュウの話をするのは楽しい、と思っているはずだ。
「普通はあり得ないんですけど、障害を越えるとき、ぼくの視界に馬の後ろ脚が入ってくるんです」
「オジュウは踏み切るとき、絶対に転ばないとわかるんです。障害を怖がっていないどころか、舐めて跳んでいるんじゃないかと思うこともあります」
などなど、石神がオジュウを語る言葉は、実に面白い。「名馬は騎手を育てる」とよく言われるが、同時に、名馬は騎手を雄弁にする。武豊にとってのディープインパクトがそうだったように、鞍上で初めての世界を見せてくれるので、それを表現する言葉も、自然と豊かで新しさに満ちたものになるのだろう。
あの武豊を「感動」させた有馬記念
しかし、ジャンパーとして絶頂期にあったオジュウは、一時期、石神の手を離れる。
平地との「二刀流」にチャレンジすることになったのだ。
18年7月7日、オジュウは武豊を新たな鞍上に迎え、4年8カ月ぶりに平地のレースに出走した。そのレースは、開設100年の節目だった福島の芝2600mの3歳以上500万下(現1勝クラス)の開成山特別。単勝2.0倍の1番人気に支持されたオジュウは、2着を3馬身突き放して圧勝した。これが平地での初勝利であった。
次走、11月の南部特別(東京芝2400m、1000万下=現2勝クラス)で平地2勝目をマークしたオジュウは、12月23日の第63回有馬記念に出走した。武を背に、好スタートからハナに立ってスタンドを沸かせた。他馬を行かせて好位で折り合い、勝負所の3、4コーナー中間で一気に加速。そのまま前を呑み込みそうな勢いだったが、直線で伸び切れず、勝ったブラストワンピースからコンマ8秒差の9着でゴールした。レース直後、武は「4コーナーでの走りは、乗っていて感動しました」とオジュウを讃えた。助走と飛越を繰り返す障害レースにばかり出ていたのに、平地に戻って3戦目で、その時代のトップホースを向こうに回して見せ場をつくったのだ。「感動した」というのはサービスコメントではないだろう。