左ボディが入った瞬間に「ああ、終わった」

　ジャブとボディで徐々にバトラー選手が削られていくなかで、ポイントになったのは10ラウンドに井上選手の右がヒットした場面かな、と。ちょうどその瞬間は角度的に背中しか見えず、うまく撮れなかったんですが、あの右でバトラー選手の膝が落ちて、力が抜けた感じになった。それまでガチガチに固めていたガードも、少しやわらかくなったように見えました。

　おそらく井上選手も「試合が動き出したな」と思ったんじゃないでしょうか。11ラウンド開始前のアピールは、10ラウンドで手応えを感じていたからでは。僕も「このラウンドで決まるかもしれない」という予感があったので、フィニッシュを狙うモードに入りました。

11ラウンド、ショートレンジの鋭い左フックがバトラーの顔面をとらえた　©Naoki Fukuda

　KOシーンに至る流れですが、右ボディからの返しのコンパクトな左フック。あれが非常に効果的で、深く入ったように見えました。ロープに下がっていったバトラー選手に対して、井上選手は10発くらい上にパンチをまとめつつ、最後に一発だけ強烈な左ボディを入れた。ガードを上げて顔を守ることに必死なところに、下のパンチが来たわけです。

　あの左ボディも、いつもながら「バチン！」というすごい音がしました。角度もタイミングも完璧で、入った時点で「ああ、終わった」と。バトラー選手は上への追撃を警戒するあまり、この試合で初めてボディが無警戒になりましたね。それまではヒジでうまく守れていたのが、あの瞬間は対応しきれなかった。

KOパンチとなった強烈な左ボディ　©Naoki Fukuda

　井上選手が“剛腕”で押し切ったように見えるかもしれませんが、最後のボディに至るまでの派手な左右のフックも含めて、あらかじめ組み立てられていたコンビネーションでしょう。ああいった上下の打ち分けは、繰り返し練習していなければ出ませんから。それにしても、勝負どころを見極めるあの嗅覚はやはりすごいですね。井上選手がスイッチを入れたのがわかったので、我々カメラマンも集中して撮ることができました。

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