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「バチン! というすごい音が」井上尚弥の完璧なボディを激写…“パンチを予見するカメラマン”がリングサイドで聞いた「危険な衝撃音」
text by
福田直樹Naoki Fukuda
photograph byNaoki Fukuda
posted2022/12/18 17:07
井上尚弥のラッシュを受けて崩れ落ちるポール・バトラー。リングサイドでKOシーンを撮影していたボクシングカメラマンの福田直樹氏に話を聞いた
バトラー選手はずっと左へ、左へと旋回していた。そのなかに時折、練習で見せたような多角的なフットワークを交えてくる。そして自分からは決して手を出さない。最高に警戒していることが伝わってくる動きでした。ただ、それだけ逃げに徹する相手に対しても、井上選手はガードのわずかな隙間を縫ってジャブとボディを当てているんですよ。ガードの上からのパンチも含めて、徐々にバトラー選手は削られていったんじゃないでしょうか。
「危険な音」がする井上尚弥のパンチ
中盤以降、“アリ・シャッフル”やロイ・ジョーンズ・ジュニアばりのノーガード、ナジーム・ハメドのようなスウェーなど、井上選手が消極的なバトラー選手を煽った場面が注目を集めましたね。カメラマンの立場からすれば、珍しいシーンを撮らせてもらえて嬉しかったです。あれだけ一方的な試合でも、引き出しの多さを見せてくれたので単調な印象は受けませんでした。
なぜ“挑発”をしたのかについては試合後に本人も語っていましたが、個人的に思うのは、バトラー陣営の「井上はディフェンスに弱点がある」といった発言が伏線になっていたのではないか、ということ。それに対して井上選手は「仮に自分がディフェンスに徹したら一発も当たらない」と応じていた。つまり相手を誘い出すのと同時に、見ている人へのアピールでもあったように思います。練習ならともかく実戦で、ましてや4団体統一戦でそれをやれてしまうのは「すごい」の一言です。実際、ほとんど被弾していませんからね。11ラウンド戦ったにもかかわらず、試合後の顔はグローブが擦れた傷さえありませんでした。
もちろんディフェンス能力だけではなく、相変わらずパンチもすさまじかった。リングサイドにいるとよくわかるのですが、ガードの上からでも「危険な音」がしていました。あの音は、軽量級ではちょっと体験したことがないレベルです。
重量級だからといって必ずしも迫力があるというわけではない、というのがボクシングの面白いところで、“パワーの密度”というか、スピード、タイミング、踏み込み……そういったすべてが井上選手の場合は完璧に近い。だからこそ、あのパンチの音、比類ない迫力が生まれるのだと思います。