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「バトラーはなぜこんな戦い方なんだ?」“井上尚弥を最も苦しめた男”が感じた敗者への違和感、異例のノーガード戦法も「井上くん、スゴすぎ…」
text by
林壮一Soichi Hayashi Sr.
photograph byNaoki Fukuda
posted2022/12/14 17:55
WBO王者のポール・バトラー(英国)に対し、11ラウンド1分9秒でKO勝ちした井上尚弥。世界で9人目、日本人初の4団体統一王者となった
「誘い出して、流れを変えるためでしょう。状況を打開しようと、手を出させてそこにカウンターや、パンチを入れることを目論んでやったと思います。バトラーに、打ってきてほしかったんですよ。バトラーはタフでした。序盤から井上くんのボディが何度もクリーンヒットしているのに、倒れなかったですよね。
試合の3分の2である8ラウンドが終わって、『ひょっとしたら、これは判定かもな』と感じました。でも11ラウンドで井上くんはペースを上げましたね」
第11ラウンド開始前、井上は何度かリング上でジャンプしながら右腕、左腕を交互に高く上げた。「このラウンドで仕留めてやる!」という決意の表れだった。
そして、右ストレート、左ストレートを放った後、バトラーを追う。ガードを固め、足を使って逃げるバトラーに、左ジャブ、左フック、右ボディストレート、左フック、右ストレート、左ボディアッパーの高速コンビネーションを見舞う。53秒、なおも距離を取ってリングを回るWBO王者に、左ジャブからの右ボディをヒット。深いダメージを負ったバトラーにワンツー、そして左右の連打をヒットするとWBO王者はキャンバスに崩れ落ちた。レフェリーがカウントする間も、ボディブローの苦しみに耐えられず、バトラーは仰向けになって悶絶した。
「スーパーバンタム級でも間違いなく世界王者になる」
「最後のシーンは、『こんなパンチもらったらヤバいな』って普通に感じていました(笑)。井上くんは、KO勝ちじゃなければ意味がないと発言していましたが、確かにあの相手を倒し切るのと判定勝ちでは全然違いますよね。攻めても攻めても倒れないので、精神的に苦しんだ局面もあったでしょう。が、それを乗り越えてのKOですから、井上くんはまた一回り強くなったと思います。
バトラーは何も出来ませんでしたが、ところどころで世界チャンピオンである部分も見せましたね。彼のコンビネーションも、井上くんじゃなければ当たっていたように思います。正直、バンタム級で井上くんに勝てる選手はいませんよ。無駄な動きが一つも無いし、ミスもありません。バトラーは、最初からノックアウトされる危険性を感じていたでしょう。凌いで凌いで、中盤から後半にかけて井上くんのガードが空く数少ないチャンスに懸けようという作戦だったのでしょうね。技術もスピードも、何もかも違い過ぎましたが」
井上は、スーパーバンタム級への転向を宣言した。これを受けて田口は言った。
「バンタムでは敵なしだったので、スーパーバンタムに上げて、井上くんの新たな挑戦が始まるんだな、と。スーパーバンタム級の世界チャンピオンになることは間違いないです。4団体統一も、ハードルは高いでしょうが、出来ると自分は思います。どこまで大きくなるのか、楽しみですね。
近く、彼に会えるとしたら『おめでとう。凄過ぎ』って声を掛けます(笑)。自分は井上くんと戦えたことを、心から誇りに感じています」
いつの日かポール・バトラーも、井上との戦いを矜持と共に回顧する日がやってくるだろうか。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。