「ただ、バトラーは全然出てこなかったですよね。見ていて『何故、こんな戦い方なんだろう』と思いました。井上くんに勝てば、名誉も富も手に入る訳じゃないですか。統一戦を戦うために日本まで来ているのだから、勝たなければ意味がない。確かに打ち合えばKO負けするリスクはあります。とはいえ、自分から仕掛けないで勝てる筈がない。どうして、もっと練習してきたことを出さないんだろう？　と感じました。一方で、そうさせなかった井上くんの技術も光りましたね。ですから、自分は2つの感情がない交ぜになっていました。両者のそれぞれの気持ちが分かりましたよ」

　田口良一は井上の組み立てと、防御感が印象に残ったという。

「初回から、井上くんのペースだな、と。ジャブも左ボディアッパーも効果的でした。どこで倒すんだろう、と思いながら見ていましたが、あまりにもバトラーがディフェンシブなので3～4ラウンドで、これは長引くなと感じました。一年前に井上くんがアラン・ディパエンに手こずった試合を思い出しましたよ。あの時も、ディパエンが攻撃の姿勢を見せなかったので試合が長引き、8ラウンドまで進みましたよね。

　自分も8回戦時代にタイ人選手と戦った時、あんな風に相手が攻めてこなかったんです。本当にやり辛かった。結局自分から仕掛けて、最後は左ボディで倒しましたが、井上くんが試合後にコメントした『試合に勝つ気があるのか？　倒されなければ、それでいいのか？　手を出してこないってどういうことだ』という感情、分かります。ところどころ、バトラーにも巧さはありました。何発かは井上くんにパンチを当てましたよね」

バトラーが仕掛けてこないため、ノーガードでパンチを誘う井上。そこから一転、攻撃を仕掛ける（1／3）　©Naoya Sanuki

（2／3）　©Naoya Sanuki

（３／3）　©Naoya Sanuki

ノーガード戦法「ひょっとしたら、判定かもな…」

　2ラウンドに、井上がボディワークでバトラーの連打をすべて躱したシーンは圧巻だった。

「井上くんは目が良過ぎるんです。それプラス察知能力が高く、どこにどういう種類のパンチがくるか、分かるんですよ。相手がパンチを出してきてからでも、その瞬間に判断して避けられます。打った後に同じ場所にいませんし、本当に穴が無い選手です」

　それでも、今回の井上には攻めあぐむシーンが見られた。バトラーを挑発するかのように、リングで動きを止めたり、両腕を腰の後ろに回してノーガードにしてみたり、サウスポーにスイッチしたりと、過去の戦いではけっして見せなかった策を披露した。

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