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戦力外通告を受けた楽天“ドラ2”ピッチャー29歳「球団スタッフとして働く」つながらなかった携帯電話…11年前、高校生だった彼が教えてくれた話
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2022/12/08 17:15
2011年にドラフト2位で楽天入りした釜田佳直。11年目を終えた今秋、球団から戦力外通告を受けた
ヒジと肩の大きな故障と闘いながら、現役11年間で一軍363イニング3分の1投げて、21勝16敗・防御率4.86。
楽天のエース、いや、ほんとはもっと上の「テッペン」を目指して、ダルビッシュ有にも田中将大にも負けないつもりで(高校時・本人談)プロに進んだ釜田佳直だから、その「結果」は本意じゃなかったかもしれないが、「プロで10年できたら、やめる時は立派なお祝い」という私の勝手なルールからすれば、「おめでとう!」と肩のひとつも叩いてあげたいような11年間だったのではないか。
11年前に語っていた「ストライクゾーンで勝負は難しい」
高校球児に高い“インテリジェンス”を感じる機会はじつはそれほど多くない。それだけに、高い説明能力と理にかなった語りに出会うと、強烈な印象が残るものだ。金沢高時代の釜田佳直投手も、その数少ない一人だった。
すでに楽天に指名されたあと、まもなく進むことになる「プロ野球」のイメージは?という問いに、
「甲子園で優勝するぐらいのチームの4番が1番から9番まで並んでる……そんな感じですね」
即答で、サラッと返してきた。
「バッターを観察しながら投げられるようなピッチャーになりたいんです。自分の場合、体の大きさ(177cm・77kg)とか、球威を考えたら、プロではストライクゾーンで勝負するのは難しいかもしれない。ストライクからボールゾーンに動くボールで打ち取れる投球。それにはバッターを観察して、ムードで感じて……1球投げんとわからんから、初球、きびしいポイントを突いて。そこで、バッターの“答え”が見えるんです。こっちの想定に対する答えが見えるっていうのか」
自分のベストボールさえ投げていれば打者を抑えられるような圧倒的剛腕ではない「自分の器」が、高校時点でちゃんと見えている。
やみくもに「エース」だ「20勝」だと、言わない大人っぽさが、すでに漂っていた。
「打席に入る前のスイングでバッターが分かる」
「投げるボールだって、ただ力一杯投げればいいボールが行くわけじゃない。次のボール、オレはこれだと思う……っていう自分の意思なり、読みなりがあって。それがキャッチャーのサインと一致した時に、本当の意味の全力投球ができるんです。次のボールはこれなんだ!っていう“確信”。その裏付けがないと、本気で腕は振れないですから」
彼と話していると、すごく楽しかった。むしろ、勉強になった。