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ブラジル「物議の韓国戦ゴール後ダンス」に“ビニシウス差別問題”の伏線… 監督も「侮辱するつもりは毛頭ない」現地報道で深掘り
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byJean Catuffe/Getty Images
posted2022/12/09 06:00
圧倒的な力で韓国を撃破したブラジル。論争となった「ゴール後ダンス」には伏線がある
後半2分、韓国はソン・フンミンが左サイドを突破して強烈なシュート。GKアリソンが胸に当てて難を逃れた。ブエノが、「気を抜くな。相手はソンだ」と注意を喚起する。画面が、スタンドで試合を見ているロナウド、カフー、ロベルト・カルロス、リバウドを映し出した。まるで相撲取りのように肥大化したロナウドが、笑顔を浮かべている。
レポーターが、「スタンドでペレを励ますコールが起きています」と伝える。キング・ペレは、結腸がんの治療のため、先月末からサンパウロ市内の病院に入院中。国中が彼の病状を心配している。
20分頃からブラジル選手の運動量が低下し、韓国がチャンスを作る。31分、韓国は右サイドでFKのチャンスをつかみ、ゴール前へクロス。カゼミーロが頭で跳ね返したが、ペク・スンホが強烈なミドルシュートを決めて1点を返した。
しかし、その後はブラジルが悠々とパスを回して時間を使い、4-1で試合を終わらせた。
試合後、選手全員がピッチ中央でペレの写真入りの横断幕を掲げ、闘病中のキングを励ました。個人的にも親交があるブエノは、「アミーゴ、神様のご加護がありますように」と声を震わせた。
ネイマールも「痛みは全く感じない」と笑顔
ジュニオールは「素晴らしいゲーム。セレソンは自信を取り戻した」とコメント。ブエノは、「優勝まであと3試合。そのすべての試合が決勝戦だ」と声を張り上げた。試合後ネイマールは、「セルビア戦で故障をしてから、不安な毎日を過ごした。でも、懸命にリハビリを続けたからこうやってプレーができる。痛みは全く感じなかった」と笑顔を見せた。
試合の翌日、日刊紙『オ・エスタード・デ・サンパウロ』は「ブラジルは今大会最高の出来で韓国を蹴散らし、クロアチアと対戦する」。日刊紙『フォーリャ・デ・サンパウロ』は、ネイマールがPKを決めてブラジルが2点目を加えた後、選手たちが並んで踊っている写真を掲載した。
試合後、このダンスが国際的な論議を呼んだ。
かつてマンチェスター・ユナイテッドやアイルランド代表でMFとして活躍し、現在は評論家を務めるロイ・キーンが、「ゴールを決める度にあれほど踊るチームを初めて見た。しかも、監督まで加わるなんて……。あの態度は、相手チームへの敬意を欠いている」と批判したのである。ブラジルのメディアと国民は、この発言に激しく反発した。
「ダンス論争」の伏線となった、ビニシウスの存在
この論争には、伏線があった。今年9月、ビニシウスがクラブ(レアル・マドリー)で得点をあげる度に踊ることに対し、スペインのテレビの解説者が「対戦相手への敬意を欠く行為だ」と批判。のみならず「そんなに踊りたければ、ブラジルのサンバ会場へ行け」、「サルのような真似をするな」などと差別的とも受け取れる発言をした。