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「すごい見つめられている感があって…」高橋大輔&村元哉中が奏でる新たな関係性「音楽が鳴った瞬間、大ちゃんの目力が変わるんです」
posted2022/11/23 17:03
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph by
Asami Enomoto
クリスティーヌと怪人が憑依したかのようだった。アイスダンス結成3シーズン目となった村元哉中と高橋大輔が挑んだNHK杯(11月18~20日)。そのフリーダンスで『オペラ座の怪人』を滑り終えると、そのまま7秒間、動くことなく互いを見つめ合った。村元が高橋のほうに滑り寄って行っても、高橋は立て膝のまま動かなかった。
「最後、足に来ちゃって立てなかったのと、いろんな気持ちがあって、動けませんでした」
178.78点で、スケートアメリカより9点以上伸ばしての総合6位。真駒内アイスアリーナのスタンディングオベーションが、2人を包み込んだ。
『オペラ座の第2章』というコンセプト
3シーズン目を迎える2人にこの曲を選んだのは、コーチのマリーナ・ズエワ。15年前、シングル時代の高橋が飛躍した、思い出深いナンバーであることを知った上で、選んだ。
「ダイスケはシングル時代に栄光を築き、高いところまで登り詰めました。それにも関わらずすべてを捨てて、ゼロからまたやり直す決意をした。まるで新しい大学に通い直すようなもの。今度はカナと2人で、再びシングル時代のように栄光を築き、歴史を刻んでいくのです。そういった意味で『オペラ座の第2章』というコンセプトを彼らに伝えました」
ファンにとっては、過去の演技の印象が強いプログラム。気持ちを新たにアイスダンスに挑んでいる高橋にとっては、『第2章』という言い方はちょっとしっくりこなかったのかも知れない。
「自分の中ではシングルとアイスダンスを1つにはしていないので、まったく別物のオペラ座と思っています。繋がりを見せるというつもりはないですが、見ている方にはそういう印象もあるでしょうし、繋がりを見てくれたら有り難いことです。僕自身は今できる精一杯のことを見せるということをひたすら考えて滑っています」
カナとダイスケは感受性を表現に繋げる才能がある
そんな風に高橋が語るのを聞いて、ズエワはこうフォローする。
「アイスダンスのファントムはもちろん別物です。シングルの時は、ダイスケはただファントムの気持ちになって、ファントムだけを演じていた。一方的な思いを表現していたんです。でもパートナーがいると、感情表現には変化が出ます。クリスティーヌがファントムをどう思っているのかを感じとり、その関係性のなかで自分の感情表現をすることになります。クリスティーヌも、ファントムへの心を模索する姿を演じます。カナとダイスケは、音楽を聴いて感受性を表現へと繋げる才能があるので、新しいオペラ座が生まれるんです。それは本当に素晴らしい芸術へのアプローチです」
村元も同じ思いなのだろう。