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2年前に戦力外…ソフトバンク藤井皓哉はなぜ“大出世”できた? 優勝かけた試合で泣き崩れるも…藤本監督に「リベンジ」を直訴していた
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKYODO
posted2022/11/21 11:01
2年前のカープ戦力外を経て、昨年12月にソフトバンクと育成契約を結んだ藤井皓哉
勝てば優勝の試合で…藤井が泣き崩れた夜
10月1日、ベルーナドームでの西武戦。
ソフトバンクは優勝マジック1で臨んでいた。つまり、引き分けでも優勝できる条件だった。試合は0-1の9回表に柳田悠岐が起死回生の23号同点ソロを放って延長戦に。勢いは明らかにソフトバンクにあった。
1-1の延長11回裏、この回から5番手で登板した藤井はあっさり2アウトを奪った。3人目の打者、森友哉に中前打を許して2死一塁。そして続く山川穂高への4球目、136キロの内角低めフォークを投じたが、完ぺきに打たれた。左翼席中段に白球が吸い込まれていくサヨナラ2ラン本塁打。今季、藤井が唯一喫した黒星は、あまりにも重たい1敗だった。
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試合直後、グラウンドで泣きじゃくる藤井の姿がテレビ中継でも大映しされた。ソフトバンクに移籍以降、おそらく初めて味わった挫折。その様子をベルーナドーム記者席から見ながら、ふと“精神的に弱い”というワードが脳裏によみがえった。
立ち直れるのだろうか。もしかしたら、これまで積み上げてきた自信も崩れてしまうのではないか。あまりに壮絶なサヨナラ負けを目の当たりにしたことで、勝手に妙な胸騒ぎを覚えてしまった。
泣いたその日に「登板直訴」していた
しかし、それは杞憂だった。藤井は選手宿舎に戻ると、藤本監督の部屋を訪れて翌日の登板を直訴した。
「このまま終わると本当に悔しい。(翌日も投げたら)4連投になるので、監督やコーチも気を遣うと思い、自分から投げたい気持ちを伝える方がいいと思った」
涙をぬぐい、もう一度立ち上がった裏には、球場から宿舎への約1時間半のバス移動があった。翌日は千葉での試合だったため、定宿ではなく東京都心のホテルに泊まることに。普段より長い時間バスに揺られていると、昨年の独立リーグ時代が頭をよぎった。