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2年前に戦力外…ソフトバンク藤井皓哉はなぜ“大出世”できた? 優勝かけた試合で泣き崩れるも…藤本監督に「リベンジ」を直訴していた
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKYODO
posted2022/11/21 11:01
2年前のカープ戦力外を経て、昨年12月にソフトバンクと育成契約を結んだ藤井皓哉
「昨年を思い出す時間になって、いい意味でリセットできた。今の環境に来て、ありがたみも感じるし、こういうところで野球ができる幸せもある。悔しがれることも幸せなんだな」
また、打たれた映像もすぐに見返した。「悔しさを糧にするというより、客観的な目線で『どんな球をどのコースに投げて、どうなったのか』というのを振り返るんです。もちろん打たれた時は、抑えたあとに比べると気持ちも違うけど、冷静な気持ちで」。広島時代にも映像は見返していたというが、現在の方が細かな点までしっかり自己分析できるようになったという。
結果的に直訴した2日は登板がなかったが、それらのエピソードは藤井が以前とはまったく別人の投手に生まれ変わったことを証明していた。
来季は先発転向も…千賀の後釜になれるか
来季、藤井には先発転向の構想が持ち上がっている。
10月28日、本拠地PayPayドームでの秋季練習中。藤本監督から「プランとして先発を考えてるけど、お前の気持ちはどうや?」と打診を受けたのだ。
藤井は驚いた。その言葉が意外だったというよりも、じつは藤井自身、その希望を心に温めており、自分から監督へ直訴するタイミングを窺っていたからだ。
「やれるのであれば、やらせてもらいたいです」
いつもクールで、自己主張をぐいぐいするタイプでない男がそんな“野心”を抱くようになったのも、今年1年間積み上げてきた実績の賜物だ。
宮崎での秋季キャンプでも先発を意識した練習を行っていた。ブルペンに入ったのはわずか2度だったが、普段のキャッチボールから今年はほぼ投げていなかったカーブやスライダーを取り入れて指先の感覚を養った。特にカーブは鍵を握る球種となるようだ。「以前も投げていたけど、握りは違います。固まってきているので突き詰めていけたら」と手応えを口にした。
先発は昨年の独立リーグ時代に経験している。年間145イニングを投げ、11勝、防御率1.12、180奪三振で、最優秀防御率と最多奪三振のタイトルを獲得した。また、ソフトバンク三軍相手にノーヒットノーランを達成したこともあった。
「高知で先発をさせてもらったことで、自分が変われた実感がある。だからやりたい気持ちは常にありました。最終的にはチームが決めることです」
来年1月の自主トレは大ベテランの和田毅に弟子入りする。本拠地でのロッカーが隣で、シーズン中も野球談議を交わしていた。先発転向の話が持ち上がってすぐに自主トレ帯同を志願。「俺、左だけど大丈夫なのか?」と聞き返されたが、「いえ、お願いします」と即答した。
ソフトバンクは大黒柱の千賀滉大が海外FA権を行使しており、今オフにチームを去るのは確実な状況だ。チーム内戦力図が激変するのは必至。千賀とはまた違うロードで大出世を果たした右腕が次代のエース候補となるのだろうか。
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