弥益は格闘技を“生業”にしていない。これで食っていく、のし上がるという感覚ではないのかもしれない。だからこそ、勝ち負けに対して純粋なのだと筆者は感じた。言い訳、つまり自分の評価を下げないための言動や自己演出とは無縁といえばいいだろうか。そうしたことと厳しく一線を引いているようにも思えた。

試合直後に見えた、弥益の人間性

　今回、弥益は自分より実績のない相手に負けた。もともとリスクばかりのマッチメイク。しかし自分にもメリットはあったのだと振り返る。

「負けて言うのもアレですが、僕は平本選手を凄く評価していたというか、強い選手だと思ってました。真摯に格闘技に向き合い続けたら、確実に上に行く選手だと。そういう選手に（試合で）触れられる。そこはメリットだなと」

　そしてこう続けた。

「自分はトントントンとベルトを巻いてしまった。しっかり苦労せずに。それはずっと、自分より格上の選手と当ててもらったから。格闘技のいいところだけつまみ食いしてきた人間だと思ってます。だからいつか、次につなげるような役目もやらなくちゃいけないんだろうなと。そういうことも頭の片隅にありました。今回そうなるつもりはなかったんですけど」

　試合直後にここまで言える選手はそういない。もはや大人という表現では足りない人格者ぶり。スポーツでは、とりわけ痛みを伴う格闘技では人間の本性が出る。勝ち負けではなく、その本性で弥益は我々を魅了した。いや本人は嫌がるかもしれないけれど、本当のことだ。

　これだけのことをやったのだ。とにかく今はゆっくり休んでほしい。そう思ったのは筆者だけではなかったようだ。「次の出社はいつですか」という質問があった。

「明日は有給をいただいてます。明後日からは仕事です」

　そう答えた弥益。ちなみに在宅勤務だから、ダメージがあっても「頑張って頭を働かせます」。

　サラリーマンなのに格闘技を頑張っているから凄いわけではないし、格闘技の経験が仕事に活きるとも思わない。「そこは切り離してます」という弥益は「なのでみなさん、今後ともそっとしておいてください」と言って笑わせた。もちろんサラリーマンとしてはそっとしておこう。けれど格闘家・弥益ドミネーター聡志は、これからさらに放っておかれなくなるだろう。

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